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13.「何で?」*真奈  

  「真奈さん、今日、マンションに行けそうですか?」  朝食を終えた時、オレは、西条さんにそう聞かれた。  あ、本気だったんだ、俊輔。……そう思った。  じゃあ本気で、大学に行って良いって言ってるのかな……。  半信半疑だったのが、西条さんの言葉で、やっと現実なのかと思えた。 「はい……」  戸惑いながら頷くと、西条さんはオレの顔を見つめた。 「体調が悪いならやめておきますか?」 「あ、大丈夫です」 「というか、そもそも話は、若から聞いてますか?」 「……はい」 「とりあえず、持ち出したい荷物だけ分かれば運ぶのは私がしますので。出かけられる準備だけしておいてくださいね」  そう言って、部屋を出て行った西条さんに、オレは、ため息。  全部を捨てて、俊輔のところに来い、と、言われて。  ……一度、全部、捨ててきたみたいな感じで。  もう、捨てなくていいってこと、なのかな……分かんないけど。  何考えてるんだろう。俊輔。  その後、西条さんの車でオレは自分のマンションに向かった。二人きりの車内。でも何となく俊輔と二人きりよりは、気まずくないのだけど……。 「……西条さん」 「はい」 「話しても平気ですか?」 「大丈夫ですよ?」  車を走らせたまま、西条さんが笑みを含んだ声で返してくれる。 「あの……オレ、大学、こんなに休んでて、普通に行けるんですか?」 「あ、はい。そうですね。……病欠ということになっています。これから課題が増えるかもしれませんが、それさえクリアすれば、留年もないと思います」 「……それって、ありなんですか?」 「……普通はないかもしれませんが……まあ運よく、そこそこ縁がある大学で。……これ以上は聞かなくて良いですよ。迷惑をかけたのは若なので、最大限で利用できるものはした感じです」 「…………」  ……聞かなくていい。聞かない方がいいんだろうなと、なんとなく分かって、黙る。 「妙にならない程度で、教授たちには話してあるはずなので、変に気にしなくて大丈夫ですよ」 「……分かりました」  他に何か聞きたいことがあるような思いつかないような。  そのまま黙っていると、信号で止まった時に、西条さんがオレを振り返った。 「真奈さんが元気になったら、大学に行かせる、と少し前から若が言ってたんです」 「……」 「このまま閉じ込めていく訳にはいかないと、思ったのだと思います」 「――――……」 「……真奈さんは戸惑うかもしれませんが、全部を捨てさせて将来どうなっても知らないとか、そんな風に思えなくなったんだと思うので……」  何だか首を傾げてしまいながらではあったけれど、オレは頷いた。  将来、か。  ……なんかもう、俊輔のところが異空間すぎて、オレが全然考えられなくなってことを、俊輔が考えたってこと?  なんか、不思議。  オレを、大学に戻させて、将来とか考えさせて……。  それでも、オレを追い出すってことには、ならないんだろうか。  オレのこと、毎晩抱いてた時は、意味が分からないけど、それが目的なんだって気がした。男、抱いたら意外と良かったのかなとか。……オレをいじめるの、楽しいのかなとか……聞いてないからほんとのとこは、分からないけど、それのためって、思えなくもなかった。  ……でも、今は……それもないし。  話するのだって気まずいし、それは俊輔だって一緒だろうし。昨日一緒に食べたけど、絶対一人で食べた方が、俊輔だって、いいと思う……。  オレは、自分が何をするためにあそこにいるのか、よく分からない。 「あの……西条さん」 「はい」 「……オレが、あの家を出るってことは、無い……と思いますか?」  オレがそう言うと、少し黙った西条さんが、前を向いたまま、静かに言った。 「……真奈さんは、出たいですか?」  「…………」 「もしそうなら、折を見て、そういうことも若に進めてみます」 「――――……」 「真奈さんが出たいと言ってたとは言いませんよ。私が、私の判断でそろそろ、とお伝えするだけですが」 「――――……」 「伝えた方がいいですか?」  そう言われて、頷くべきだと思うのだけど。  何だか頭の中、ぐちゃぐちゃになって、頷けない。  そもそもオレ自身が、逃がしてくれるって言った凌馬さんに、俊輔のところに戻るって言ったのは。  何でだったんだろう。  

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