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15.「ポカポカ」

 あの後、換気を終えてから、荷物を持って、車に戻ってきた。    「真奈さん、外で何か食べたいものはありますか?」 「外で?」 「ずっと屋敷のものが作ったものなので、美味しいとは思いますが、たまにはファーストフードとかも、食べたくなるんじゃないですか?」 「あー……食べたい、かも」  思わずぽろ、と漏れた言葉に、西条さんは笑った。 「ですよね、買って帰りましょう。昼はそれでいいですか?」 「ありがとうございます」  と、そんな流れで、ファーストフードのお店に寄って、買って帰ることに。  なんかすごく、久しぶりな気がした。  俊輔の屋敷に着くと、西条さんがオレの荷物を部屋に置いてくれて、ゆっくり食べてくださいね、と言って部屋を出て行った。  手を洗ってから、テーブルについて、紙袋を開けて、中からポテトを一つ。 「……うま」  久しぶりに食べた。……ここ来てからは食べてなかったし。  ここのごはんって、いつも、どっかのお店みたいで、美味しいんだけど。  いつも一人だしなあ。たまに、西条さんが来て、何か用事をしながら話してたりする時もあるけど。なんかここって本当に、閉鎖されてる空間で。  ……オレ、よく、こんなとこに戻りたいなんて、凌馬さんに言ったなあ。  そんな風に思うと、なんだか自分が可笑しくなってきてしまう。  久しぶりに、てりやきバーガー。  西条さんが、屋敷から近い店で買ってくれたから、まだ温かい。  前に食べたのいつだっけなと、思いだすと、多分大学の帰りに、友達と寄ったのが最後かなと。すごく、遠い昔な気がする。  ……戻れるのかな。大学に。元居た場所に。  ……俊輔はそれでいいのかな。  オレを、少し自由にして……その内、離れる準備かな。  ……ってなんかまた、考え方おかしいか。……そうだよね、話していた時、その通りにするのは嫌そうだったけど、オメガと結婚してアルファの後継ぎとか言われてるみたいだし。  オレがずっと俊輔のところに居る未来は、無い。ていうかもともと帰りたいって思ってたんだし。別にそんなの当たり前っていったら、当たり前だし。 「――――……」  じゃあ何で、こんなよく分からない気分になるのかな。  ……久しぶりに、ジャンキーな味。……美味しいけど。なんか、気持ち的に美味しくない気がして、ふー、と息をついた時。 「……だから、午後の授業がふたつ休講になったんだって」  ドアが開いて、そんな声とともに、俊輔が中に入ってきた。 「で、真奈を昼に連れてこうと思って帰って来たんだけど」  俊輔は、オレが食べてるファーストフードを見て、ちょっと止まってる。 「ただいま」 「おかえり」  珍しい言葉をかけられて、自然と出た言葉。俊輔はオレの隣に近づいてくると。 「……半分食べていい?」 「……?? いいよ?」  食べたいの?と思いながら頷くと、俊輔が手を洗って来て、向かい側に腰かけた。 「ハンバーガーも半分食べる?」  頷くので、食べてない方を半分、俊輔に渡した。   「これじゃ足りないだろ? 何か食いに行こうぜ」 「何かって?」 「バイク出すから、好きなもん」 「オレの、好きなもの?」 「珍しく昼、あいたから」 「……うん」  頷きながらも、せっかくお昼があいたら、オレとご飯食べてくれるって。  ……他の人と食べないのかなと思ってしまう。 「……あの」 「ん?」 「俊輔って、オレと居て、楽しい……?」 「――――……」  俊輔に、びっくりした目で見られてしまう。  近くに居た西条さんが、ふ、と笑うのが分かって、オレと俊輔は、ぱっとそちらに視線を向けた。 「あ、すみません」  クスクス笑いながら、西条さんはすぐにオレ達に背を向けて、窓を開けに行った。 「……お前と居たくないなら、ここに連れて帰ってない」 「――――……」 「……お前と色々話したい」 「――――……」    気まずいとか。オレもそうだけど、俊輔も、一緒に居て話しにくそうとか、つまんないとか。  今まで話もせず、夜抱かれるだけだったのが、それが無くなって……居る意味、あるのかなって思うのは、そういうところだったから。  ……話したいって言ってくれるんだ。そっか。  なんだか急にふわっと、心の中の重たいものが無くなって、なんだか、ポカポカした気分。  さっきより、ポテトが、美味しいような気がする。

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