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16.「最大限に」*真奈
西条さんに見送られて、俊輔のバイクで出発。
しばらく走って、海が見える道路に出た。バイクに乗せてもらうのは、二回目。前の時よりは慣れて、景色を楽しめるようになったかも。……前の時は、暴走族の集まりだったから、怖くて楽しめなかっただけかもしれないけど。とにかく、今日は天気もいいから、波がキラキラ光ってて、すごい綺麗。
辿り着いたのは、イタリアンのお店だった。チェーン店じゃなくて、店の外装から何だかすごくこだわってるおしゃれなお店。何がいいか聞かれて、パスタが良いとは言ったけど、こんなおしゃれなとこに来るとは思わなかった。
「前に凌馬と寄ったら、旨かったから」
バイクを停めて、俊輔がヘルメットを外しながらそう言った。
「外から見ただけで美味しそうな気がする」
バイクを下りながらそう言って、ヘルメットを外すと、それを受け取りながら俊輔が、少し笑う。その様子を見て、あ、と思う。
もしかして、俊輔って、オレが普通に話せば、普通に笑ってくれるのかな。……って、当たり前か……?
……オレって、俊輔のことを何だと思ってるんだろ。
歩き出した俊輔について、店の中に入ると、海が見える窓際の席に案内される。
なんかメニューを見ても、名前がおしゃれすぎて、よく分からない。
「……よく分かんない」
「ん?」
「どれが美味しい?」
「前食べたのは……これ。凌馬はこっち。どっちもうまかったから、何頼んでも大丈夫だと思う」
うん、と頷いてメニューを眺める。
「……じゃあ、これがいい」
「サラダのドレッシングは? スープは?」
セットになるみたいで、飲み物まで全部選んで言うと、俊輔が店員さんを呼んで注文をしてくれる。
店員さんが居なくなると、俊輔がオレに視線を戻した。
「さっき食べたけど、食べられそうか?」
「うん。少し食べたら、なんか余計お腹空いたかも……」
「ならいいけど。……お前、普段あんまり食べないって和義が言ってたから。ちゃんと食えよ」
「……うん」
……だって外に出ないからあんまりお腹空かないし。一人で食べてもおいしくないし。確かに俊輔のとこに来てから、かなり少食になった気がするけど。
原因の人に、思い切り注意されてしまった。ちょっと可笑しいな、なんて思っていると。
「今日午前中、荷物取ってきたんだろ?」
「ぁ、うん。行ってきた」
「どうだった、久しぶりの家」
「――――……」
どうだった……って。何の質問? えーと……。
「……西条さんが開けてくれてたから、普通な感じだった。変な匂いとかするかなって思ってたんだけど……」
「そういうことじゃねえよ」
俊輔が苦笑いを浮かべて、オレを呆れたように見てる。
「……帰りたくなったかってこと」
「――――……」
……ますます、何の質問。
「……帰りたいって言ったら……帰すの?」
「……帰さない」
俊輔はなんだか少しムッとした顔で、そう言った。
……なら聞かなくていいんじゃないだろうか。
そう思いながらも。
「……オレ、俊輔のとこに帰ったばかりだし……帰りたいっては、思わなかった」
思ったことを、伝えたら、
俊輔は、オレを見つめて、少し瞬き。
「ほんと、お前って……」
「……?」
「……意味がわかんねえな」
「………………」
えーと……ていうか……。
最大限に、意味が分からない人に、しみじみ、言われてしまった……。
全然納得いかなくて、でもなんて言い返せばいいか分かんなくて黙ってるところに、サラダやスープが運ばれてきた。
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