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26.「疲れた後に」*真奈

 西条さんに「帰る時間が分かったら早めに教えてください」と言われていたので、最後の授業の前に連絡を入れておいた。裏の大学の駐車場で待ってると返事がきたので、授業の後、皆と別れて駐車場に向かう。  皆と、また明日ねと、別れる。……日常すぎて、不思議。  この普通の生活、しばらくしてなかったから、こっちの方が夢みたいな気すらする。  ……色んな人に話しかけられた。  イイ感じだったはずの女の子にも話しかけられたのだけれど。  やっぱり、何も感じなくて。うん、そうだよね……と思った。  だってオレの世界に、今、一番強烈に居るのは、俊輔だもん。  特に恋愛で女の子を好きとか、そんな気持ち、今は……。 「真奈さん」  西条さんが車から出て、オレを呼んでくれた。 「あ、すみません、西条さん」 「おかえりなさい」  促されるまま車に乗ってシートベルトを締めると、オレは、無意識に、ふ、と息をついていた。「疲れましたか?」と言われて、はい、と頷く。 「課題は出ましたか?」 「あ、はい。本を読んで、レポートを書く感じでした。そんなにたくさんて感じじゃないので良かったですけど……」  それでも結構な教科数があるから、ちゃんとやんないと。 「西条さん、オレ明日とか、帰りに大学の図書館寄ってもいいですか?」 「もちろん。良いですよ」 「もう早めにひとつずつ終わらせていこうと思うんですけど……二十二時まで開いてるので……」 「そうですね。時間が時間なので、若に聞きましょうか」 「あ、はい……」  オレって大学生で……。しかも男だし、二十二時が遅いってことはそこまでは無いと、思うんだけど……。  うん、でもまあ。……そんな気はした。 ◇ ◇ ◇ ◇  後から帰ってきた俊輔と、今日も一緒にご飯中。ていうか、ほんとに最近帰り、早い。  西条さんが、そういえば、とオレを見る。その視線を追って、オレを見た俊輔に、レポートと図書館の話をした。しばらく聞いてた俊輔は、ふうん、頷いてから。 「――良いんじゃねえの」 「え」 「良いんじゃねえのってよりも、仕方ないだろ。早く終わらせた方がいいよな?」 「あ、うん」  ……ダメって言われると思ってたのか、オレ。  俊輔が良いって言ってくれたことにびっくりしてしまったところで、そのことに気付いた。 「いいんですか、若」  西条さんも俊輔に聞いてる。……てことは、西条さんも、俊輔がだめって言うと思ってたってこと? そっか、そもそも、若に聞きましょうって言ったの、西条さんだもんね、と、お水を飲みながら、聞いていると。 「レポートを出さなきゃいけないなら仕方ないだろ。迎えに行くから、問題ない」  え? ぱっと顔を上げて、俊輔を見つめる。  ん。迎えに行くって、言った? ……誰が? 「オレが迎えに行けばいいだろ」 「――――……」  西条さんは、ふ、と笑って、「だそうです、真奈さん」とオレを見た。 「……えと」 「何」 「……あり、がと」  それ以外に言葉はないかなと思って、そう言ってみたら。  俊輔はちらっとオレを見てから、「別に」と言って、すぐに西条さんに視線を移して、「今日どこに迎えにいったかあとで教えろよ」とか、言ってる。  迎え。自分の大学が終わってから、オレの迎えに来てくれるってことか。  ……なんか西条さんのお迎えより、ちょっと申し訳ないと思ってしまう。  ソファで、西条さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ぼー、と時計を見上げる。まだ、二十時過ぎなのに、なんかすごく眠い。  俊輔はシャワーを浴びに行ったので、なんとなく気が抜けてると。 「眠そうですね? 真奈さん」  優しい声で聞かれて、西条さんを見上げた。 「あ。はい、ちょっと……まだこんな時間なんですけど」 「ずっと出てなかったのが、朝から一日でしたしね」  ふ、と笑われて、送迎してもらってるのにすみません、と言うと、いえいえ、とまた笑われてしまう。 「すみませんとかは、私に対しては、いらないですよ」  今までも何度か言われた言葉だけど、ついつい言ってしまう。色んなこと、してもらうのとか、慣れないし。  そこに出てきた俊輔。オレを見て、「眠そうだな」と苦笑。 「コーヒーなんか飲まずに、飲むならホットミルクとかにすればいい」 「そうですね、用意します」  俊輔の言葉に、西条さんが微笑みながら即座に返して、部屋を出て行った。ぇ。コーヒーで大丈夫なんだけど……と思いながら、髪の毛をタオルで拭いてる俊輔を見てしまう。 「図書館もいいけど、無理すんなよ。欲しい本があるなら取り寄せればいいし」 「……でも多分、その時しか使わないから」  もったいない、と言いそうになったけど、多分これ言っても、俊輔には分かんないんだろうなあ……。そういう価値観の違いはうめられそうにないなぁ……。  うーん。と考えてしまう。  

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