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29.「怖くない」*真奈

 何だかとっても豪華でおいしそうなお弁当。 「俊輔は、ごはんは?」 「帰ってすぐ食べてきた」 「あ、そうなんだ。……じゃあ、頂きます」 「ん」  袋から出した水筒、見せてくれながら。 「緑茶だって。死ぬほどうまいからって、和義が言ってた」 「え。なんかすごい……」  そう言うと、少し笑んだ俊輔が、水筒の蓋になってたコップにお茶を入れてくれて、渡してくれる。  ……俊輔に、お茶を注いで貰ってしまった。  なんだか目をパチパチ、何度も瞬きしてしまいながら、受け取って、少し飲んだ。 「わ。ほんとだ。美味しい。なんか甘い」 「――――……」  思わず、笑顔になってしまって、もう一口。なんだかすごく視線を感じるので、俊輔を見つめ返すけど、何も言ってくれない。 「……俊輔も、飲む?」  はい、と渡すと、一応受け取ってくれて、コップをあおる。 「美味しい?……よね?」 「……ん。そうだな」  あ、良かった。微笑んでくれたという、こんなことになんだかホッとしてしまう。  変なの。ほんとオレ。  別に今、俊輔のこと、もう怖くないし。俊輔の反応にいちいちビクビクしてる訳でもないんだけど……。  なんとなく。俊輔が嫌なことはしたくない、と思ってるみたい。  俊輔が、少しでも笑ってくれると、嬉しくて、答えてくれると、ほっとして。  ――――……ここに、居てくれることも、なんか、謎だけど、嬉しいような……?  追加で入れてくれたお茶のコップをオレの隣に置いて、俊輔が取り出したのは、もう一つの水筒。 「何が入ってるの?」 「コーヒー。和義に持たされた」 「ブラック?」 「あぁ。……でも、砂糖とクリーム、お前用に持たされた」 「――――……ふふ」  なんかありがと、と言いながら、くす、と笑ってしまう。  俊輔がまたオレを見てるので。 「……?」  何だろうと、目を合わせると、俊輔はふ、と視線を逸らした。 「……食べたら、戻るぞ」 「あ、うん」   何となく急いで食べようと思ってたら、コーヒーを飲んでる俊輔が、「ゆっくりでいい」と、ぽそ、と呟く。  ――――……。  ん、と頷いて、また普通のスピードで。 「――――……」  なんか。  オレ。どうしてたらいいか、分かんなくなってくるなあ……。  怖いわけじゃないけど、いつもドキドキしながら、俊輔の反応を気にしてて。はっきり、喋れてない気もするし。……俊輔は、こんなオレと居て、何が楽しいのかなあって、思ってて……。 「真奈」 「……?」 「――――……一つ、いいか」 「……うん?」  改まって何だろうと、ドキドキしていると。 「こないだも、言ったけど…… 今も、オレのこと、怖いか?」  そんな質問に、ぽけ、と俊輔を見つめてしまう。 「まあ、仕方ないけどな。でも、怖がってる相手と、ずっと居るのきついだろうから」 「――――……」 「怖がらなくていい。何もしない。お前が例えば、あの時と同じことをオレに言っても、大丈夫だし、それ以外の何を言っても、別に変わらない。だから、そういう意味では、安心してろよ」  オレから目をそらしたまま、言い切ると。  黙ったままのオレを見て、ふ、と首を傾げた。 「無理か?」 「…………っ」  オレは、首を横に、何度も振った。 「今オレ、怖いって、もう、思ってない」 「――――……そうか?」  納得して無さそう。 「お前、よく困った顔、するから」 「……それは……あの…… ……挨拶……」 「ん?」 「…………挨拶、しても、いい?」 「――――……は?」 「おはよう、とか……おやすみ、とか……」 「――――……」  何だか俊輔は、ものすごく、不思議なものを見る顔をして、オレを見てる。 「あの……今まで俊輔とはずっとしないで来たから……していいのかなって」 「――――……」 「オレ、母さんとずっと二人で、母さんとはしてきたけど……そういうの俊輔は、しないのかなとか……?」  ……やばい。何言ってんのか、分かんなくなってきた。  変なことを聞いてるよな、絶対、オレ……。  ……挨拶ってきっと普通だと思うのに、俊輔は普通じゃないって言ってるみたいに聞こえるかな。うう。どうしよう。でももう言っちゃったから、取り消せないし。  ううう……。箸を持つ手に、ぎゅ、と力が入ってしまう。

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