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30.「心臓」*真奈
固まってるオレに、俊輔が「はっきり、言っとく」と言った。
はっきり……何だろ。はっきり……。何を言われるんだろうとドキドキしながら、俊輔を見つめていると、俊輔はじっとオレを見つめ返した。
「――――言ってくれていい」
「……あ。うん」
……そう、なんだ。……じゃあ、あの固まるのは何なんだろう。……ってこれは聞かない方がいいかな。言っていいって言ってくれたんだから……。
オレが、うん、と小さく頷くと、俊輔は少し間を置いて息をつきながら、少し視線を落とした。ちょうど、オレと俊輔の間にある、お茶の辺りを見つめてる。
「――――ただ、オレは」
「……?」
そこでまた少し黙ってから、視線をあげてオレをまっすぐ見つめた。
「あまり家族とそういうのはしていない。和義にも、そういえば、ああ、で答えることの方が多かった気がするし」
……確かに、なんか聞いたことがあるような。その返事。
「慣れてないから――――少し、止まる、かもしれないが」
「――――……」
「……返すように、する」
目の前の整った顔。スッとした二重の形良い瞳。なんか無表情だと、彫刻とか、作り物みたいで、怖かったし。怒るとほんと眼光鋭いって感じだし。ずっと。怖かったと思うのに。
最後の一言を、言った時。
なんだか少し、照れたみたいに。
また視線が落ちたけど。それと同時に、口元が、綻んで。
ふ、と。優しい表情に、なった。
不意に、どきっ、と胸が弾んで。
きゅ、と、胸の奥が、締め付けられる、みたいな。
――――……っ。
オレは、うん、と頷きながら、ぱ、と視線をお弁当に移した。
特に俊輔は、その後は、何も言わないでくれたから、オレは、なんだか、やたら多い自分の瞬きと、なんだかやたら早い心臓と、ひたすら戦う。
なんか。
何これ。心臓、痛い……。
「コーヒー飲むか?」
俊輔が普通の感じで、そんなことを言ってくるので、こくこく頷きながら、とにかく早くお弁当を食べてしまおうと唐揚げを頬張った時。
「唐揚げうまそう」
と、俊輔がちょっと笑う。
「……た。べ、た、い??」
「何だ、その喋り方」
完全に呆れたように言われた後、「食う」と返されて。なんだかドキドキしながら、箸で一個取って、そのまま口の近くへ運ぶと。俊輔が、ぱく、と食べた。
……別にこれくらいのこと、色んな友達とかともやってきたし。食べさせてもらったり、あげたり。お弁当だけに限らず、お菓子とか、色々。やってきたのに。
何でオレ、今、ドキドキしてるんだろう。
…………ぜ。全然分かんない。
前を向いて、ぎゅう、と目をつむった後。お弁当をただひたすら早く食べてると。
「つか、ゆっくり食えって」
ふ、と苦笑してる感じの俊輔に、ただ、こくこく頷くのみ。
やっと食べ終わって、注いで貰ったコーヒーも飲んで、図書館に戻ることになった。俊輔は何をして待ってるつもりなんだろうと思ったら、オレの隣に座って、オレの課題のプリントを眺めてから。
「休んでた分の、形だけ出せばいい課題だろ? もう手伝うからさっさと終わらせようぜ。……とりあえず、ざっと読んで、大事そうなとこに付箋貼ってってやるから、そこメインに読んでまとめろよ」
「え。――――いいの?」
「まあ。この課題、オレのせいでもあるし」
…………たしかに。
……俊輔のせいだと言ったらそうかもしれないけど。
眉を顰めて、きまり悪そうに言った俊輔がなんだかすこしおかしくて。
ふ、と笑ってしまうと、ますます、なんだかおもしろく無さそうな顔。
「……笑ってねーで、本貸せ。じゃあ真奈は、そっちやってろ」
「うん……」
……図書館で、俊輔とこんな風に。
並んで一緒に、とか。
なんだか、すごく。くすぐったいような。
……なんか、そわそわ、するけど。
ふと隣を見ると、真剣な顔した俊輔。
……外で見ると、なんか、本当に、イケメン感が半端ないよね……。何なのこの人。
「――――何?」
思わず見つめてしまっていると、ふと、オレと目を合わせて聞いてくる。
どうしてこんなに、視線が強いんだろ。
……ありがと、と、ぼそ、と伝えると。
「いいから早く終わらせて帰るぞ」
なんか、前ならその言葉。
冷たい命令に聞こえたのだと思うけど。
……今は、そうは、聞こえない。
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