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35.「何が怖いか」*真奈

 本も持ってきて、しばらくパソコンに打ち込む。俊輔は、隣で、何かの雑誌をめくってる。  西条さんには、もう今日はいい、と俊輔が言ったから、それからはずっと二人きり。 「……何時までやるんだ?」  聞かれて、俊輔の方を見ると、肘をついたまま、斜めに視線を向けられてる。……何でオレ、ドキ、て、するんだろう。 「……この章まで、やってもいい?」  そう答えると、俊輔はじっとオレを見て、少しして、苦笑した。 「聞かなくていい」 「……うん」  頷いて、またパソコンに向かう。  しばらく続けながら、ふと、考える。  聞かなくていいって。  ……オレは、この章までやってもいい?って聞いた。そしたら、聞かなくていいって。  …………なんか、苦笑いしてたなあ。  俊輔に、聞く癖が、ついてるのかも。  別に、今、ほんとに怖くはないのに。何していい、とかすぐ聞いちゃうし。してくれると、ありがとうより申し訳ない、みたいな。  うーん? ……怖いのかな、実は。  オレは、まだ本当は、俊輔が怖くて。それで、聞いちゃうのかな。……今日も俊輔に、怖いとかどうとか、なんか色々話されちゃったし。  ていうか。怖いとしたら、何が怖いんだろう。  ……俊輔が、オレを傷つけないっていうのは、なんかもう、そんな気がしてるのに。怖いこと、ある……?  ……なんだろう。分かんない。  オレは少しして、本を閉めてパソコンも閉じた。 「俊輔、歯、磨こ?」 「……ああ?」  なんだか疑問符ついてる返事だったけど、頷いてくれて、一緒に歯を磨きに向かう。並んで歯を磨いて、ちら、と俊輔を見上げる。気付いた俊輔に、ふ、と見下ろされる。しゃべれないので、そのまま。少し視線を逸らした。  しばらく無言で歯を磨いた後、口を漱いだ。 「パソコン片付けとく」  そう言って俊輔から離れて、机の上を片付けて、一足先にベッドに乗った。  ……俊輔のベッドにさ。オレがこうやって乗るのだって。普通に考えたら、おかしいんだ。いつまで、ここに、こうしているんだろうって、いつも思ってて……。 「――――……」  あ。  …………なんか。  今すこし、分かったかもしれない。何が、怖いか。 「真奈?」  ベッドに座って、固まってたオレに、部屋に入ってきた俊輔が不思議そうに呼びかけた。  何て言うだろう、俊輔。  出ていけって言われるのが、怖いのかもって、言ったら。  それが怖いから、オレ、気に障らないように、してるのかもって。  少し前は、逃げたのに。  バカみたいだって、自分でも、思うから。  言えないけど。   (2024/7/28)  

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