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38.「怪しい者じゃ…」*真奈
「君は大学生?」
「はい」
頷くと、瀬戸さんは机の上に視線を向けた。
「大学の、課題かな?」
「あ、はい」
「真奈くん、ね」
置いておいた課題の表紙の名前を見て、そう呼ばれた。振り返った瀬戸さんがオレを見て、んー、と少し唸る。
「何から聞くべきか迷うんだけど。――俊輔が居ないのにその部屋で、大学の課題をやってる君が誰なのか、聞いても良いかな? 大学も俊輔とは違うみたいだし」
「――――……」
視線の先には、大学の貸出用バーコードの大学名。
うう。なんか色々目ざとすぎて、なんだかとても、怖い。
何て言ったら、良いんだろう。
「友達?」
「友達……というか……知り合い、ではあります……」
「まあそうだよね。じゃないとここで勉強はしてないだろうし」
瀬戸さんは、クスクス笑って、オレを見つめる。
「オレと同じように約束してたとか?」
「……」
頷いてしまいたいけど、絶対違うことを、そうだと言えない……。しかも、なんかこの人には絶対バレそう。でもだからって、この人が俊輔にとってどんな相手なのかもわからないから、変なことは絶対言わない方がいいよね。本当のこと……って、今、どんな関係なのか、全然はっきり言えないのに、そんなのを説明するわけにもいかないし。
少し考えた後。オレは、背の高い瀬戸さんを見上げた。
「あの……俊輔に聞いてもらっても、いいですか……?」
「ん?」
「……勝手に言いたくないので、俊輔に聞いてほしいです。一応、オレがここにいるのは、俊輔は了承済みです。……怪しい者じゃ、ないので」
「怪しい者……」
その言葉だけを繰り返して、瀬戸さんはオレを見て目を細めた。
「怪しい奴は、大学のレポートはしてないと思うから。そこは信じるよ」
そんな風に言って、可笑しそうに笑う。
「なるほど。そうだね、俊輔に聞いた方がいいね」
そう言うと、少しの間、考え深げにオレを見つめていた瀬戸さんは、ふ、と微笑んで、了解、と笑った。
「じゃあそっちはそれで。――――話は変わるんだけど」
「はい……」
「この課題、難しいと思う?」
「……あ、ちょっと今悩んでて」
「オレ、詳しいよ。手伝おうか?」
意外な申し出にびっくり。
……でも、ちらっと見ただけなのに、そんな風に言ってくる瀬戸さんに、ちょっと期待してしまう。
「え。……良いんですか?」
「俊輔が帰るまで暇だから」
言いながら、リビングテーブルの椅子を、机の隣に運んでくる瀬戸さん。
「座って。どこまで考えたか話してみて?」
「あ、はい」
なんかへんなことになったな。誰なんだろう、この人。
思いながらも、なんだか本当、先生っぽい口調に、なんだか逆らえず、オレは椅子に腰かけた。
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