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37.「突然の」*真奈
久しぶりに大学に通い出して、俊輔に付き合ってもらって夜まで。
結局あの後は大した話もしてなくて、普通に過ごしてる。夜は一緒には寝てるけど、触れては来ない。というか、疲れちゃって、布団に入ると、眠ってしまうっていうのもある。
……俊輔、前は毎日みたいにオレを抱いたのに、もう全然したくなくなったのかな。だとしたら、あれまでって一体なんだったんだろう。
もうすでに……オレのこと、弟とか、そんな感じで見てるのかな。
それならそれで、オレもそのつもりでいるけど。
……まあでも。そもそもオレはベータだし、アルファの俊輔がなんでオレなんか、て感じではあるし。アルファはオメガのフェロモンが良いに決まってるし。
そんな風にモヤモヤすごした平日が終わり、土曜の朝。目覚めると俊輔が居なかった。
そうだ。昨日、言われたんだった。「明日は用事があるから起きた時には居ない。和義もいないから、食事はテーブル置いていかせる」って。
お昼過ぎには帰るからって昼は待ってろっても、言ってたっけ。
八時かぁ……。
「起きよ……」
声に出して、ベッドから降りる。着替えて、顔を洗って、テーブルについて、朝ごはん。
「いただきます」
小さく言って、食べ始める。
静かだなあ……。
明るくて広い窓のカーテン越しに、広い庭が見える。ふと目を向けると、広い部屋。こんなところで一人でごはんを食べてる今が、やっぱり不思議。
……とりあえず、俊輔が帰ってくるまでに、課題進めとこ。
食べ終わって、食事の片づけを頼むと、紅茶を持ってきてくれたので、お礼を言って受け取り、俊輔の机に移動。
パソコンを載せて、資料を広げた。
机の方がやりやすいから好きに使え、と貸してもらったのだけど。確かに椅子、座りやすいし、快適。
しばらく集中していたら、コン、とノックの音がしたような。すぐにドアが開いたので、咄嗟に振り返る。
「――……あれ?」
入ってきた男の人は、オレを見て、首を傾げた。知らない、人だった。
「あ。俊輔は、今、出かけてて」
時計を見るともうお昼。ずいぶん集中してやってたかも。
「もうすぐ帰ってくると思います」
何となく立ち上がって、そう言うと、その人は微笑んだ。
「あ、うん。分かってる。さっき連絡したから。ああ、君が居るから客間で待っててって言われたのかな。いつもなら部屋でって言うのにとは思ったんだけど。――――暇だから何か、本を借りようと思ったんだよね」
言いながら部屋の中に入ってくるその人は、誰かは分からないけど。俊輔の友達というには少し年上な感じ。兄弟は居ないらしいから……。親戚とか?
二十代後半かな。整った顔をしてて、知的な感じ。話し方も優しくて落ち着いていて、聞きやすい。少し長めの黒い髪。細いフレームの眼鏡がすごく似合ってて――――頭、良さそう。背も高くてすらっとしてる。
なんかすごく、「先生」ぽいイメージ。
「君は、誰かな? 俊輔の友達?」
「あの……倉田真奈、です」
そう言うと、ふ、と微笑んで。
「僕は|瀬戸 瑛貴《せと えいき》。塾の講師をやってる」
流れるような動作で、す、と名刺を渡される。カッコイイ人だな。なんか、大人な感じ……。受け取った名刺を見て、有名進学塾の名前を見つけた。難関大向けの塾の講師さん。
なんか、すごく、ぽい……!!
一人納得していると、瀬戸さんは、オレが座っていた机の近くにやってきた。
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