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白薔薇は妖精王にあう(1)

 グリフォンの群れが降り立つと、見知った顔がわらわらと降りて来て広場にたむろする。みんなすっごい怖い顔してるんですけど。  白銀の鎧、弓に剣、あれ、本気装備だよね。 「なんで兄様が三人もいるの?しかも武装してるよ。わたしのこと、連れ戻しに来ただけじゃないの?」 「アルウィン王は大変お怒りだそうだ。傷ついた白薔薇を取り戻す為には戦も辞さないとさ」  パトリックが皮肉っぽく言う。 「何とち狂ってるの?てかさ、それ脅しで、単純にメリーがいなくて寂しい!返さないなら戦しちゃうぞ?じゃないよね?」 「そうなのか?」  パトリックが呆れたように聞く。否定したい所なんだけど出来ないのが辛い。うちの家族のわたしへの溺愛っぷりって、箱入りとか越えちゃって宝石箱入りって感じなんだよね。 「そうな気がするんだけど。  この間の長期休み、帰らなかったじゃない?  毎日、皆から文来て、兄様が迎えに来るとか書いてあったんだけど、ルーカス王に王宮にお招きいただいてるので帰れません!って返事したんだ。  そしたら、なんか行間から呪いの言葉が滲み出そうな文が届いたんだよね」 「陛下に王宮に呼ばれていたのか?」 パトリックが硬い表情で聞く。 「呼ばれていたよ。今回はやることがあったから行かなかったけど。  王宮に行くと、やれ歌えや、楽器弾けや、植物の手入れしろや、なんか道化か庭師かみたいな雰囲気になるんだよね。夜這いとかマジすごいし」 「夜這い……ですか」  ローにそう言われて、うんと頷いてけらけらと笑った。 「まあ、一度犯られそうになってからは部屋に魔法で鍵……」 「誰ですか?」  ぐいって腕を引っ張られてびっくりした。ローの目が怒りに煌いている。ぴんと立って前に伏せられた耳とむき出しの歯が怒りを伝えて来た。 「口を慎めメリドウェン、死人が出るぞ」  真剣な顔でパトリックが言う。  怒っているローに胸がきゅんとしてぎゅっと抱きついて、背中をぽんぽんと叩いた。 「自分でボコボコにしたから大丈夫」  なんかムチ持ってて、魔法で捕まえたんだけど。ムチで叩くつもりだったのかこの変態って、ムチを奪って返り討ちにしたら「ご褒美です」とか言われたのは黙っていた方がいいかな。  ローがわたしの背中に手を回して来て、そっと抱きしめて身体を揺らす。  うわ、これ気持ちいいんだけど。うっとりしてると、パトリックの声が聞こえる。 「ところでお前ら、その格好でアルウィン王を迎えるつもりなのか?」  はっとして離れてお互いの姿を確認した。ローはまだ半裸で、腰からズボンが落ちそうになってるし、わたしのガウンくしゃくしゃになってるし、ボタンぶらぶらしてが取れかかっている。 「うわ。着替えないと」  パニックを起こしながら、ベッドに走り寄って棚の中から服を出す。  頭からガウンを脱ごうとして、裾を持ち上げてくねくねしていると、ローが抱きついて来る。 「ロー?」 「ぱ、パトリック先輩がいますから」  パトリック?パトリックがどうしたっていうんだ?ああ、見せたくないってこと? 「パトリックはルーカス陛下の裸にしか興味がないから大丈夫だよ」  ガウンの襟首から顔を覗かせて微笑んだ。  ローの目が丸くなる。 「お前……」  目線で人が死ぬなら、わたし死んでるよねってくらいの勢いでパトリックに睨まれた。愉快だ。 「あ、内緒だった」  爽やかに笑って口をおさえると、さっきの仕返しをする。  手は離してくれたけど、パトリックからの目隠しみたいに立つローの影で服を着る。 「もしさ、もし、どうしても国に帰らなきゃならなくなったらなんだけど。 その時はわたしと来てくれる?」  腰帯をバックルで止めながら、何気ない風を装ってローに尋ねる。 「勿論です」  ローが頷いて微笑む。 「オオカミの国……<狼の巣>に帰れなくなるかもしれないって事なんだよ?」  わたしはそれがどんなに重いことかわかっていた。  ローは真王になるべき人間だ。真王をエルフの王子が盗んで国に連れ去る。そんなことが許される訳がない。でも……どうしてもローと離れたくない。 「真王になれなくなるかも」  恐れで震えるわたしの声を聞いて、ローは安心させるように頬に触れた。 「俺はあなたと居たい」  ためらわずに言ってくれるローにぎゅっと抱きつく。 「愛してる、ロー」  ローは首を傾げて微笑んだ。  キスしようと顔を寄せると、パトリックが咳をする。 「ローの服はどうした?」  半裸のままのローがずり下がったズボンの紐を締めなおして、慌てて上衣を拾いに行く。パトリックの視線がそれを追っている。 「ちょっと!いやらしい目で見ないでよ!」  パトリックが物凄い嫌そうな顔でわたしを見る。 「ローの半裸に欲情するのはお前くらいのものだ。 それに……体術の稽古の時には毎回見ているぞ」 「ずるいよ!何それ!わたしも見たい!」 「……」  真っ赤な顔でローがこっちを向く。 「変態エルフが!」  吐き捨てるように言うパトリックにかちんと来た。 「陛下の絵姿、にやつきながら撫でてる奴に言われたくないよ!」  あ、言っちゃった。  ものすごい形相でパトリックがこっちに来る。 「何故知ってる?」  がしっと頭をつかまれる。 「いたいたいたいたた!」  ギリギリギリと指に力がこもる。 「何故知っているのかと聞いている」  わお。殺人者の目をしてるよパトリック。青い目が真っ青で触ったら切れそうだよ。 「バカだのアホだのムカつくから、弱味握ってやろうかな〜って、姿見にちょっとまじないを……」 「覗きはよくないですよ」  眉を顰めて呆れたローが言う。わたしは慌てて叫んだ。 「いや!でもさ!陛下の絵姿見てるパトリック、すっごいキモいんだよ!なんか、ちょっと頬染めちゃってさ。呪われそう……」 「メリーさん?」  ちょっと、どれだけ力があるの?もしかしてリンゴ粉砕とか出来るんじゃないの?ってか、わたしの頭リンゴと勘違いしてない? 「いたい!いたい!さっきパトリックが刺さったところに指が!わたし痛み耐性ないエルフなんだよ!死んじゃう!死んじゃうよ!たすけて!ロー!」 「パトリック先輩、お怒りはごもっともですが、それくらいで」  ローが冷静に宥めるように言う。  パトリックはこれ以上ないって冷たい目でわたしを見てる。 「冷静に諭さないでよ!」 「いくら悪口を言われても覗きはやりすぎです。ごめんなさいは?」  ローが困り果てたような表情でいう。うるうる目でローを見るけど、ローは首を振った。 「わかったよ!ごめんなさい〜ごーめーんなさーいー」  あ、ストレスの余りふざけてしまった。あるよね?緊張しちゃって、こうふざけちゃうって。でもさ、謝ったんだから、いいよね?  あれ?ぶちってなんか聞こえたんだけど。気のせい?  ぐぐぐってなんか……ますます指に力が入ったような。おかしい。  あれ?わたし、若干浮いてない?  足ちょっとぷらぷらしてない?  このまま捻られたら、わたし死ぬよね。  ガチャ  ものすごい形相のパトリックに頭をつかまれて若干浮いているわたしに半裸のロー。  真っ青な顔のマーカラム師  眉間に縦皺を寄せたすっごい怖い顔の父上。  呆然とした顔の次男のセルウィン兄様に、そっくり双子の三男のナルウィン兄様。あ、五男のフロドウェン兄様が怒りに震え始めたね。  あ、セルウィン兄様、こんなところで剣抜かないで。  なんで弓持って来てるのナルウィン兄様。  やめて、フロドウェン兄様、それ風系攻撃魔法の詠唱じゃない。  ってかさ。  なんでみんなドア開ける前にはノックしないの?ノックでカムインがマナーじゃないの?

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