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【番外編】朝起きて家を出るまで

 最近書いてないな~と思っていたところ、スランプの時はキャラが朝起きてから家を出るまでを書いてみるといいって話をtwitterで見たのでやってみたというお話です。ローとメリーがらぶらぶでれでれしているだけの甘いお話。えっちはありません。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「メリー」  宥めるような声に目をぱしぱしとさせた。んーと呻いてうっすらと目を開くと、溶けた銀の瞳が嬉しそうに輝く。柔らかく触れた唇に、うっとりと目を閉じるとそのまま意識が遠くなる。 「ああ、寝てはダメですよ」  優しい声に反抗するようにむいっと唇を突き出すと、触れた唇が笑いに震える。 「さあ、メリー。もう起きないと……今日は仕事でしょう?」  ううんと唸ってころりと転がった。優しい腕が軽々とわたしを抱き上げる。すりすりとローの首に顔を押しつけて、陽だまりと森林の香りの混じったローの匂いを吸いこむ。  だらりと垂れた手にローの尻尾がぱたぱたと触れた。  ローがゆっくりと台所の中を動く。わたしを落とさぬように食事の支度をするのは大変だろうが、寝椅子に横たえるという発想はないらしい。  フライパンからいい匂いがする。薄目を開いて鼻をひくつかせると、ローがわたしを揺すりあげた。  しっかりと抱きついたわたしに、ローの動きが早くなる。炙ったチーズがパンの上でじゅうと音をたてた。かき回された半熟の玉子がふわりとその横に乗る。  ことんと色鮮やかなサラダがテーブルにのって、二つ出てきた杯にミルクが注がれた。 「お願いします」  囁くローの声に、寝ぼけた声で呪文を唱えると、指を鳴らす。杯から湯気が立つ。ローがテーブルの上の壺に匙を突っ込むと、金色の蜂蜜をすくいあげて片方の杯に回し入れた。ぱかと口を開けるとまだ蜂蜜のしたたる匙が口に押しこまれる。  もごもごと蜂蜜を舐めとりながらふわあと息を吐くと、ぽろりと匙が落ちる。おっと、とローがその匙を器用につかんだ。  やっぱりまだ眠い。  こてりとローの肩に頭を乗せると目をつぶる。もしゃもしゃと口を鳴らしていると、くすくすと耳にローの笑う息が当たる。 「俺にも一口、その甘いのを分けてくれませんか?」  ん~と呻くと、ぺろと舌を突き出した。迎えるようにローの舌が絡んで、甘さを分けあう。満足したローがわたしをそっと椅子に乗せる。 「さあ、これがあなたには必要だ」  ミントの葉が浮いた蜂蜜ミルクを慎重な手つきで差し出されて、おとなしく受け取るとこくりと飲む。  すうっとするミントの味に、重たいまぶたが少しだけ開いた気がした。野菜を乗せて二つに折られたチーズサンドを差し出されて、もぐもぐと食べる。絶妙の塩加減のふわふわの卵を匙ですくって食べる頃には頭がすっきりとして来た。  きょろりと視線を巡らせると、ローが隣の椅子に腰かけてゆっくりとミルクを飲んでいる。気だるげにテーブルに肘をついた姿はどきっとするほど魅力的だ。ぴんと立った耳、ゆっくりと尻尾が揺れていた。  ゆっくりと揺れる尻尾が、ほんのちょっぴりローが不機嫌だと教えている。  何をしてしまったかな。考えを巡らせて昨日の自分を思い出した。うん。あれはまずいよね。 「ご、ごめん」  ローが一瞬きょとんとして、困ったなというように微笑む。 「いいんですよ。疲れていたんでしょう?」 「き、昨日は、その、ちょっとのってしまったというか。絶好調で……つい」  わきわきと手を動かして、ちらりと奥の部屋の机を見る。新しく考えついた呪文を書き写すのに夢中になってしまったのだ。何度か声をかけられたのだが、深夜に書き終わるまで熱中してしまった。  くたくたになって寝床に入ったのだけど、ただでさえ悪い寝起きがそれでますます悪くなってしまった。  ローはわたしが弱るのを恐れているから、とても心配したに違いない。 「ごめんなさい」  もう一度囁くと、ふうとローがため息をついて、そっとわたしにキスをした。 「愛していますよ。メリー」 「わたしもとっても愛している。ロー」 「ならいいんです」  ローの瞳が甘く蕩ける。ああ、ローはとってもかわいい。ほわわっとして腕を差し出すと、膝の上に抱えあげられてちゅうちゅうとキスを交わす。  キスが情熱的なものに変わりそうになって、ローがため息をついた。 「あなたの仕事が休みだったらいいのにな」 「わたしもそう思うけれどね」  悪戯っぽく笑って、ローの膝の上でくねくねと身体を動かす。ローが参ったと言いながら、わたしをぬいぐるみのように持ちあげて、子供のように揺らす。 「あなたにお昼を届けようと思うんですよ」 「それは、伴侶の鏡というやつだね」  じたばたと手を振ると、ローがすとんとわたしを膝の上に乗せた。ぎゅうと抱きつくと、ローが朗らかに笑う。  ふざけあいながら着替えをして、連れ立ってドアを通り抜ける。市場に買い物に行くんだってローいつも言い訳するけど、ほんのちょっとだって一緒にいたいだけだっていうのはお見通しなんだ。  わたし達は朝から幸せだ。そういうお話。                《おわり》

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