9 / 12
真っ白な愛に溺れて
あれから季節は過ぎて、冬を迎えていた。ちらちらと降り積もっていく雪は今年初めての雪だった。寒さに縮こまりながらもマフラーに顔を埋めれば不意に声がかかる。隣を歩くその人物の顔を見れば寒さで少し赤くなった鼻が可愛くて思わず笑った。
この世で一番幸福な日を世界で一番好きな人と過ごす。
この幸せが限りなく、できれば永遠に。
「うわぁ……すっげぇきれー……」
目の前のクリスマスツリーを目にして思わず言葉が漏れる。今年初めてのイルミネーションは目を奪われるほどとても綺麗だった。
「凄いね」
隣にいる愛 を見れば綺麗な横顔がイルミネーションの光でキラキラと照らされている。愛の視線を追ってまた目の前のツリーへと視線を戻す。その綺麗さに気付けば自然と笑みが浮かんでいた。
「真白 」
不意に名前を呼ばれる。琥珀色の瞳と目が合えば途端に心臓が高鳴ってその瞳から逸らせなくなる。真剣な表情の愛がそこに居た。
「結婚しよう」
その言葉に、一瞬胸が詰まって呼吸を忘れた。そうかと思えば込み上がる熱が涙腺を緩めていく。滲んだ視界で愛の姿がぼやけていく。
「もちろん、卒業してからになっちゃうけど、」
愛が、俺の頬に流れていく涙を拭う。
「結婚しようよ、真白」
優しい手つきに涙が止まらなくて、嬉しいのかなんなのか胸いっぱいになった気持ちがなんだかちょっとおかしくて思わず笑った。
「うんっ、する、したい」
止まらない涙をそのままにくしゃっと笑った俺は不格好だったと思う。けれど愛は優しく笑って俺を抱きしめた。甘いバニラの香りが鼻腔を埋めていく。
『 誕生日、おめでとう 』
タイミングよく揃った声はお互いの誕生を祝う言葉だった。揃うなんて思わなくて驚いて一瞬見つめ合えばお互いの驚いた顔に込み上げて来る笑い。
『 ありがとう 』
またしても揃ったお礼の言葉に今度は驚くことなく笑い合った。
「真白、これ」
あれから愛の家が経営しているホテルへとついた俺達はテレビを見ながらくつろいでいた。この日の為に予約してくれていた部屋はとても豪華で多分このホテルの中で一番良い部屋何だと思う。萎縮してしまいそうだったから、敢えて聞くのはやめておいた。
愛の差し出しているラッピングされた箱を見つめる。促されるまま手に取ったそれは少しだけ重くて首を傾げた。
「開けてみて」
優しく微笑む愛に促されてラッピングを解く。蓋を開けるとそこには真っ白のCollar があった。
「っ、これ……!」
ぱっと顔を上げれば微笑む愛と目が合う。頷いた愛を見てまた涙腺が緩んだ。
真っ白のチェーン状になった少し細めのCollarは上品な光沢を纏っていた。中心に控えめに添えられた宝石らしきものは愛の瞳と同じ色。その下に小さくぶら下がるドッグタグには愛の名前が刻まれていた。それに胸がきゅーっとなる。
「つけて」
思わず口にした言葉に愛は嬉しそうに笑った。愛の綺麗な手がそっとCollarに触れる。そこでふと愛の右手に付けられているそれに気付いた。
「愛、それ」
「ん?あぁ、Leash だよ」
その右手に上品な輝きを宿すそれは俺のCollarと同じデザインでそれよりも少し細いもの。解ける仕様のようであるそれは少し長めのチェーンのようだった。中心に控えめに輝く宝石らしきものは俺の瞳と同じ色に見えた。それを囲うように施された装飾には俺の名前が刻まれている。
愛の手が首元を滑って少しヒヤリとした無機質な温度が首元に触れる。少しの重さがあるそれが心地よくて僅かに締まった首元にドクン、と心臓が震えた。
見つめ合った瞳は熱が篭っていて互いの口元に吸い寄せられるように近づいていく。
触れた熱は涙が出るほど嬉しくて愛しい。
「愛してるよ、真白」
囁かれた言葉は甘く深く俺の心に刻まれる。鼻腔を満たす愛の甘いバニラの香り、俺を見つめるその琥珀色の瞳、深く入り込むその声全てが、愛しくて。
「俺も、愛してる。愛」
愛 、その名前は愛 そのものだ。
視界の隅で愛がくれた五本のピンクの薔薇が映る。一片落ちていったそれを見て俺は目を瞑り五感全てを愛に託した。
真っ白で純粋なその愛に俺は溺れていく。
『真っ白な愛に溺れて。』Fin.
ともだちにシェアしよう!