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マッチ売りの娼年 1
薄暗闇に視界が覆われる頃、公園の一角にあるベンチに一人の少年が座る。
なんてことはない、金髪の少年だけれども傍らにはマッチを入れたビニール袋を置いて、うつむき加減に誰かを待っている雰囲気だった。
街灯になんとか人だとわかる影が近づいて、少年に握り締めた千円札を差し出す。
目の前に出されたそれは握り締められていたせいか皺が寄り、少ししけっているかのようだったが少年に否はなかった。
皺だらけのお金の代わりに、小さな箱にマッチを10本だけ入れて人影に差し出すと、何も言わずに立ち上がってベンチの裏へと消えていく。
人影は戸惑ったようだったけれどそれに黙ってついていき木立へと足を踏み入れた。
少し中に入っただけで通りから聞こえていたわずかな音は完全に遮断されて、その場にいる二人の気配だけがはっきりとわかる。
「あの どうすれば 」
返事は返らず、代わりにジ……とファスナーを下ろす音が響いて暗い中にわずかに布の擦れる音が響く。
人影のゴクリと唾を飲み込む音とわずかに草を踏みしだく音がした後、「いいよ」と鈴を転がしたような声がした。
「あ……あ、えっと 」
「マッチを擦ったら見えるよ」
その言葉を追いかけるようにクチュ と水音が響いて、人影ははっとしたように小さな箱からマッチを取り出して、もたもたとした動作でマッチ棒を擦った。
チカリと火花が散ったと思った途端、柔らかな光が辺りを照らして物の燃える臭いが辺りに漂う。
細い棒の先に灯った炎が生き物のように揺らめいて木立を照らし上げて……
「 ん ……っ」
目の前にいた少年を照らし出す。
暗闇の中、マッチの頼りない明かりの中でさえもその少年の肌の白さは際立っていて、人影はどうして闇の中でそれが見えなかったのか不思議だと思った。
内側から光っているんじゃないかと思わせる滑らかな肌は、胸元から胸、そして下腹部に至るまで丸見えだったが、小さな明かりでは照らせる範囲が限られているせいか人影が望んだ個所は暗い影に落ち込んで見えない。
思わず身を乗り出すようにして……
「あっつ!」
人影が声を上げたと同時に辺りは再び闇に落ちる。
一瞬明かりを見たせいか、瞼の裏に残った炎の残像にごまかされて闇は更に深い闇だ。
「ン、次つけて」
急かされて、人影は慌てたように二本目を擦る。
今度は下方に向けてマッチを差し出すと、柔らかそうな白い太ももが見えてその少し上に細い指先が見えた。
巧みに動くソレは少年が別の意識体に操られているかのようにも見える。
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