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ケダモノの聖餐 1
──私は人の心臓を食べました──
薄暗い照明の部屋の中、見事なまでの紡錘形を描く腰から尻にかけて、男が手を伸ばして撫でまわる。
それが他人の体なのだとまったく理解していない様子で自分勝手に好きなだけ触れると、満足そうな喉に籠るような笑いを漏らして指に力を入れた。
張りがあるが柔らかく沈む。
極上の手触りだと男は更に笑みを深めた。
黒い艶のある布で作られたタイトなドレスは背中が大きく空いているために、ほんの少しずらせばすべてを晒してしまいそうなほど危うい。
けれど男はあえてそれをずらさないように細心の注意をしながら指だけをこっそり中に入れ、体に貼りつくガーターベルトを探り当てる。そして決して落ち着いているとは言えない手つきでそれをぐいぐいと引っ張り始め……
荒い息と共に体中を弄られ……けれど女は、冷静な視線のまま微動だにしない。
「 ────人に見られるのが趣味なのか?」
冷ややかで低い声に男が飛び跳ね、しがみつくように弄っていた女を突き飛ばす……が、派手に吹き飛んだのは男の方だった。
胸と尻こそ豊満だったがそれ以外はすべて華奢な女は微動だにしないまま、冷ややかに男を見下ろしてからくすりと赤い唇を歪めて笑う。
床に倒れ込んだ男は何が起こったのか……いや、それよりも部屋の奥でゆったりと椅子に座る人間は誰なのかと薄暗い部屋の中で目を凝らし……
「ひっ」
小さく悲鳴を上げて後ずさる。
なぜ今までその存在感に気づかなかったのか、鋭い獣のような視線に呼吸も忘れて体を竦ませる。
「お……大神……」
声に出しはしたものの、男の声はその名前を呼ぶことに怯えているようだった。
ゆったりと座っているだけだと言うのにひしと感じる殺気と、殴られたならばただでは済まないと思わせる体躯と……
「こ、この、女は あんた の、 」
ハニートラップだった の言葉は出ない。
その前に男がさっと女の腕を掴んで懐から何かを出そうとし、
「 ────は?」
懐に忍ばせてある刃物で女を人質にと思っての行動だったはずなのに、腕を掴んだ手がどうしてだか空を切る。
慌てて女の手を掴もうとするも、一瞬は掴めるのにどうしてだか次の瞬間にはやはり空気を掴んでしまって……まるで幽霊でも掴んだかのような気味の悪さに、男は大神に睨まれている恐怖を上塗りするような恐ろしさによろよろと後ずさった。
「あら? もうおしまい」
すっと掲げられた女の手は美しい白魚のような非の打ちどころのない造形だ。
爪の先まで気を付けて磨き上げているのだと一目でわかる。
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