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ケダモノの聖餐 2

 女はくるくる と爪先を回す。  その瞬間、指先はざぁ……と崩れて落ち、けれど次の瞬間には元に戻る。   「 ────バケモノっ」  男のひぃと言う喉に貼りつくような悲鳴は掠れて響くことはない、女は見事な砂時計型の体を翻して大神に近づくと、胸の谷間から取り出したカードをぽとりと落とす。 「は……は⁉ なんでそれを……っ」  男はバタバタと自分の体を慌てて探り、どこにもないことを改めて理解して顔色を悪くする。 「お……大神さん、それ……お返しいただけませんか……その、あなたのところとうちは…………昔から持ちつ持たれつだったじゃありませんか? ほら、あなたも何度かうちの組に遊びに来たことも   っ」  大神が言葉を発しないのを是と取ったのか、男はだんだんと調子づいて大声で喋り始め……そして言葉を止めた。  正確には言葉を止めざるを得なかった。 「そんな話は、してねぇよな?」  ぎらりと音を立てそうなほど硬質で冷たい光を放つ金属質の冷たさに、男はよろけそうになったけれどそれも叶わない。  首の前後、ひやりとしたそれが一瞬で命を絶つことができると、男はこれまでの人生の中でよく知っていた。  ある時は知り合いが振るって殺していたし。  ある時は自分が振るって気に食わない奴を黙らせた。  左右に持たれた二本のナイフは、ほんの少しでも動けば食い込むと言うほどに喉にぴたりと押し付けられている。 「レヴィ、殺すなよ」 「……死ななきゃいい?」  闇から生まれ出て来た……いや、天井からいきなり現れたその声の持ち主は、細く長い腕と手足で天井からぶら下がっているせいか、この世界の生き物ではないように見えた。  先ほど女をバケモノと呼んだけれど、この奇妙さを感じさせる男に対しても同じ言葉を投げつけてやりたいと男は思う。    レヴィと呼ばれた奇妙な男は、重力を感じさせない動きでナイフを動かさないままするりと部屋に降りると、南国に住む極彩の鳥からむしってきたかのような色味の髪を揺らしながらかくりと首を傾げる。 「口が利けたら、いいんだよね」  きひ と笑いながら男の顔を覗く目の瞳孔はこれからのことを考えて興奮しているのか全開だ。  男は本能的にレヴィはまずい人間だと察知し、話の通りそうな大神に縋るような視線を向けた。 「大神さん! あんたとうちの仲じゃないですか!」 「組の看板を下ろさざるを得なくなってから以降、年始の挨拶すらいただいてませんがね」  大神はカードを弄びながらさして興味のない様子で返事をする。 「そ、それは……新反解体法が出てバタバタしていたからじゃありませんか、状況が落ち着いた今、改めて残された我々で手を組み、新たな対策に取り組むべきでは?」  

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