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落ち穂拾い的な この手の中には種がある
手の中には小さな種がある。
それは本当に小さなもので、本来なら芽を出すことも叶わない死んだ種だ。
けれども、その種を活かす方法を知っている。
眩しいイルミネーションが視界に入り、彼の目が細められる。
その先には父と新しい母。
兄は……父の方を振り返っていた。
だから僕は、ポケットに入れていた種を一つ取り出した。
一つだ。
兄の分もこっそりポケットに入れておいて、僕の指先には二つの小さな種が触れていた。
一つ目が失敗したら二つ目を取り出せばいい と、決めてそれをぽとん と足元に落とす。
この人がそれを踏む確率はどれくらいだろうか?
きっと高くはないのだろうけれど、小さな画面の中ではすべて成功していたのだから僕のこれも成功するだろう。
僕は、父が大好きだ。
母が言うように顔がいいだとかお金を持っているとかではなく、そこにいてくれるだけで嬉しくなるような存在だ。
纏う空気が僕を嬉しくさせる。
だから僕は父の傍に居たかったけれど、あの母はそれを叶えてはくれなかった。
母が持たせてくれる薄い板は、放り出しているといろいろなものを垂れ流してくれた。
母はそれに僕が夢中になっていると機嫌がよかった。
あれは様々な知識を垂れ流してくれた。
だから僕はいろいろなものを毎日じっと見ていた。
虐待のニュースだったり、
Ωの抑制剤の新薬だったり、
ドラマだったり、
クイズだったり、
そんな生活が変わったのは、虐待されていると信じてくれた父が僕を連れ出してくれたからだ。これでやっと僕は父の傍で生活できると信じていた。なのに、父はあの人の傍に居て帰ってこない。
どうして?
お腹に子供がいるから?
ならばいなくなれば、父は戻ってくるだろう。
腹の子がどうすればいなくなるのかは、 小さな板が教えてくれたから。
別にあの人に恨みがあるわけでおもなかったし、弟か妹ができることに関しては、はしゃぐ兄を見ているといいものなのだろうと理解はしていたから残念だったけれど、お腹の中にいたままでは父が帰ってこないから仕方がなかった。
だから、僕は足元に、パフェに乗っていたサクランボの種を落とす。
すぐに二つ目を用意するためにポケットに手を入れたけれど、どうやらそんなことは必要なかったみたいで。
あの人の体がグラ って揺れて、バランスをとるために両手を広げかけて……でも結局はお腹を押さえて、頭から倒れていった。
あの人の足の下でガリ と鳴った種は砕けて使い物にならなくなってしまっていたけれど、もう一つあるから大丈夫だろう。
驚いた顔で地面に激突するあの人を見下ろして……
「おなかは、うった?」
そう小さく唇だけを動かして問いかける。
声が出ていないから、わからないだろうって思ってたのに、あの人は血で覆われた目をはっと見開いて……
だから僕は、小さな板の中の人がしたように、あの人に向かって微笑んであげたんだ。
END.
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