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0.01の距離 1

 今朝の味噌汁はシンプルに具はわかめのみ。  イイ感じに焼けた鮭と納豆と海苔と、それから米粒が立っているご飯。  質素と言ってしまえば言えてしまう献立だったけれど、男子大学生の作る朝食にしては悪くないんじゃなかろうか?  それを二人分、絵に描いたような丸いちゃぶ台に用意してから、部屋の奥に声をかける。 「おい、飯だ」  多少ぞんざいな言い方だったとは思うが、そこは気心の知れた者同士……特に抗議の声を上げないまま、せんべいのような布団に頭まで潜らせて眠っていたミントがもぞもぞと動き出す。   「   ぁ、ざーっす   」  むにゅむにゅと口を動かしつつ、こねるように挨拶をするミントは、部屋着兼寝間着の緑のジャージ姿のままのそのそと起き出し、眼鏡をかけると寝ぐせと目ヤニのついたままの状態で面倒そうに向かいに座る。 「信(まこと)さま、ぉ はざー……ス   」  放っておけばそのまま、また夢の住人になりそうなミントの前で両手をパチン! と鳴らした。  うと と舟を漕ぎそうになった首が跳ね上がって、それに倣って寝ぐせが揺れる。 「あ、信さま。おはようございますです」  ちょっと殊勝な様子で言うも、箸に手を伸ばしたまままたうと……とし始めるから。 「ミント────っ!」  安アパートだっていうのに朝から怒鳴る羽目になるのは、毎日のことだった。  辛うじて六畳ある畳の一部屋と、お情け程度の板間のキッチン……いや台所と狭い狭いトイレ、風呂はない。  俺が入居する前に大きくリフォームしたと説明は受けたけれど、それでも隠しきれない古さ。  そこに、俺とミントの二人で暮らしている。 「あ、あ、あ、皿洗いくらい、オレがやりま   」  腹にものが入ってやっと目が覚めたのか、ミントがひらひらとフリルのついたエプロンを身につけながら寄って来るが……  たった二人の洗い物なんてしれているから、最後の皿を水洗いしているところだ。 「オレっオレの仕事っ」  そう言うなら、食後ごろごろと寝転ばなければいい話で……   「もう終わった。俺は大学に行ってくる」 「えっえっ⁉ 土曜なのに今日も学校⁉ おべ お弁当!」 「ゼミの方に顔を出しに行くって言っておいただろう?」  昨日、何度か言っておいたはずだが携帯電話に夢中で聞いていなかったんだろう。  慌てて冷蔵庫を覗き込むが、弁当になりそうなものがないのは朝食を作った俺自身が一番よくわかっている。  朝は弱いし、食事の段取りはしないし、スケジュールは把握していない。 「で、ではっお弁当お届けしますです! それもメイドのお仕事だよね!」  気合を入れて叫ぶけれど、ダメダメメイドが大学構内を迷わず歩けるはずがない と、俺はさっくりと断ることにした。

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