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はいずる翼 1

 騒がしい表通りから少し折れたところにある店が『影楼』だ。  キャストが全員Ωという特殊な風俗店であり、オレ……みなわが随分長いこと勤めている店でもあった。  汚れた地面を避けて裏口から入るとすぐに待機室で、二人ほど携帯電話で時間を潰しながらぼんやりと座っている。  一人がオレを見て鬱陶しそうな顔をして……もう一人は知らんぷりだ。  挨拶ぐらい と思うけれどもそれもこの子達は面倒そうだった。  自分の親ほど……というのは言い過ぎだろうけれど、ずいぶんと年が離れてしまえばそんな態度をとられても仕方ないのかもしれない。  昔は後輩の指導だ! と躍起になった時もあったけれど、人の入れ替わりにつれてそれも面倒になってきてしまった。  どうせ、オレ一人が残ることになるんだから。 「  ────年増が何しにきてんだか」  着替えようとしたオレにその言葉が投げかけられて……反論する前に言葉が萎れて喉の奥に張り付いた。  聞こえなかったフリをして仕事着を手に取ろうとした時、事務所の扉が薄く開いて手がこっちにこいと手招く。  鬱陶しい感じに伸びた黒髪の隙間から目が覗く。  猫背なせいかその鬱陶しさが余計に増しているのだと、誰が注意しても直す気のない彼は小金井だ。下の名前は長い付き合いだけれど、何だったか覚えていなかった。 「ちょっとこっち来て」 「……わかった」  古びて飾り気のなかった待機室とは違い、事務所の方は観葉植物が置かれてキャビネットの上に前衛的なオブジェがあったりする。  とはいえ、古さがマシかと言われたらそうじゃない。  オレだけじゃなく、この事務所もずいぶんとくたびれている。 「寒くなってきたよね」  小金井の話の始まりは大体が寒いか暑いかから始まる。  たまに花粉が酷いと言う時もあったけれど、それはスギ花粉の季節に限られていた。 「そうですね」 「それで、この間話したこと考えてくれたかな?」 「……」  小金井はくたびれた黒いスーツの懐から煙草を出して火をつける。  紫色の煙が漂うのを目で追って、どう返事をしてやろうかと考えながら溜息を吐くと、小金井が「はは」と小さく笑う。 「悪い話じゃないと思うんだけどな? みなわだって   あー……勤めて長いし」  年だし の言葉を飲み込んだ気配がした。  この仕事を始めて、そんなに時間が経っていないような気がしていたけれど、年齢的にはもうぎりぎりだ。  Ω専門店という部分とオレ自身の特異性のために勤めていられるけれど…… 「みなわはこっちのことをよく知ってるし、経営側になってもよくない?」

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