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はいずる翼 2
こうして誘ってもらえるのは光栄なことだとはわかっている。
「神鬼組……じゃなかった、例の太客もとんと音沙汰なしなんだろ?」
「……」
オレは厳めしい顔を思い出して眉間に皺を寄せた。
やっと引き寄せたと思った大神との繋がりも、何かボロが出るようなことをしたのか……それともあいつの勘が働いたのか、ある時を境にぱったりと連絡が取れなくなって……
随分と気に入ってもらえていたと自負していたけれど。
「あの客だけが客じゃないから」
つん と言い返してみたけれど、小金井にはそれが強がりだとわかっているだろう。
オレに残されているのはこの珍しい体質を面白がっている奴らばかりだ。
Ωとのセックスでの一番の醍醐味である発情セックスがいつでもできるのは、オレくらいなものだ。
「……まだ大丈夫です」
続けた声はわずかに震えていた気がした。
オレはここを離れない。
それが、オレの番に言われたことだからだ。
仙内和歌(せんないあえか)と出会ったのは高校生の頃だった。
随分と長い間空き家だった隣に引っ越してきた大学生が和歌で、出会った瞬間やっとオレはこの世に生まれた気がした。
毎日溺れるように呼吸もままならないまま過ごすオレの前に現れた彼は、自由で、力強くて、かっこよくて……
「若葉」
膝を抱えて庭の隅にうずくまるオレを見つけて名前を呼んでくれる。
それだけで幸せだと思うのは、オレの名前を呼んでくれる人が他にいないってのもあると思う。
「あえ か、おかえりぃ、帰ったんやね」
へら と笑って、お隣との境界線である垣根の向こうから覗く和歌に向かって顔を上げた。
「ただいま ……若葉は、また、か?」
そう言われて慌ててむき出しの爪先を引き寄せ、隠しきれもしないのに両手で覆う。
乾いた「あはは」って笑い声が口から漏れる度に、息が白く染まる。
「おばさんは? それと若菜は?」
「二人とも出かけてる」
若菜がテストで一番をとったお祝いに食事に行った……って情報は言わないでおいた。
オレは残念ながら三番目だったから、お仕置きで外に放り出されている。
和歌はその言葉を聞くと、垣根をかき分けてトンネルを作ってこっちにおいでと手招いてくれた。
一軒家に大学生が一人暮らしだというのにいつ行っても和歌の家は綺麗に整っていたけれど、悪く言ってしまうと生活感のない場所でもあった。
建って随分経つからか家はひんやりとして冷えるようだったけれど、それでも裸足で外に放り出されるよりははるかに温かい。
「すぐに温かくなるから」
そう言うと和歌は石油ストーブに火をつけて、毛布を畳んだ座布団代わりをその前に置いた。
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