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落ち穂拾い的な 二人の結末 3

 ミクの瞳の中の自分は……やつれていなかった。  幸薄そうと言われ続けた細さも、食堂で働くにつれて味見や試作品作りで以前よりも食べるようになったからか、血色も少しはましになっている。  ずっと会いたかった子供にも会うことができて、鬱陶しがられながらも話すことができて、願っていたことが叶って幸せな姿だ。  なのに、その目はぽつんと寂しげだった。 「みなちゃんのこと、好きです」  リップサービスや性的なものが一切絡まない真っ直ぐな告白に、どきんと胸が脈打つ。 「ぁ、……その   うちは、ここから出ることもできんし」  逃げようと視線が逸れる。  今までの人生の中で自分の心を占めていたのは和歌で、それ以外が立ち入る隙なんてかけらもなかった。  でも、ミクと出会ってそれが緩やかに温められて解けて…… 「  ……ミクちゃんには、もっと 相応しい相手が  」  しどろもどろと返した言葉は何ともいえないほど使い古されて擦り切れた感がある拒絶のセリフだ。 「 っ」  自分の言葉を噛み締めるように唇を真一文字に引き結んで、ミクは感情を揺らがせないままに深く頭を下げた。  身長が同じくらいだからミクのつむじを見ることなんてなくて、不思議な気持ちでそれを見下ろす。  いまだ高く鳴り続ける胸を押さえると、痛みを感じているんだってわかった。 「今まで、ありがとうございました」 「ぁ、ぅん……」  今までも面会を断ったり、食堂の利用者として訪れていたのを一人の客としか扱わなかったり、色々してきた。その度にミクは無言のまま、少し悲しそうな笑顔でぺこりと会釈程度に軽く頭を下げて去っていくだけで……  上げられた顔はきらりと光っている。 「な、な、なんで泣くんや」 「怒られてしまって。もうここには来れなくなってしまいました」 「う、うちはっミクちゃんのこと怒ってなんかあらへんやんっ」  追い返す言葉が少し乱暴だったか? きつかったか? 「みなちゃんじゃなくて責任者の方からお叱りをいただいてしまって」 「しか……? 瀬能先生か? バチクソあれな人やけど、そんな怒るような人やないやろ」 「いえ、みなちゃんの婚約者だって、嘘を吐いたのがバレて  関係者じゃないからもう、ここには入れなくなってしまったんです」 「こんっ……⁉︎」  思わず素っ頓狂な声を上げた自分の目の前でミクが飛び上がる。 「す、すみませんっすみませんっ! でも……みなちゃんが入院した時、店員と客じゃ会わせてもらえないと思って……」 「やからってそんな突飛な嘘……」  

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