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落ち穂拾い的な 二人の結末 2
涙を溜めながら、それでも自分の選択に悔いを残さずまっすぐ前を向いた姿を……眩しく思って項垂れる。
地獄のような場所から自分の足で飛び出した力強さに、憧れと同時にきゅうっと胸を締め付けるような感情もあって……
「 これが、好き、なんやろな」
それを口に出しても、腹部は痛まなかった。
瀬能が自分の腹から取り出したものが何かは聞いてはいないが、それがずっと悪さをしていたんだ と説明された。
何が腹に入れられていらのか、気にならないわけではなかったけれど、ずうずうしく深く聞くことはできなかった。今ここにいられるのはしずるのお陰で、自分がへたなことをしたらしずるの身が危なくなる可能性がある。
だから、自分はここでおとなしく、当たられた職をこなしながら解剖される日まで生き続けるだけだ。
その結果、死ぬのか生きるのか、無事なのか不自由な体になるのか、それでも生きていられるのかはわからないけれど……
「やけ、そんな人間に関わらせちゃいかんよな」
エプロンのポケットから取り出した小さな紙片をすっと鼻につける。
淡い南国を思わせるような香りがして、脳裏にへにゃりと笑う遥歩の姿が浮かんだけれど、頭を振って振り払った。
自分で決断して自分で進んでいける力強さを持った彼なら、自分が渡した金を上手に使ってもっと幸せな人生を過ごしてくれることだろう。
αの番は無理でも。もしかしたら無性か……βか、もしくは……もしくは、Ωのパートナーを見つけて、きっと、きっと、きっと……
「 っ」
飲み込んだ唾がやけに苦い後味を残す。
たった一言、二文字の言葉を言ってしまえばいいと唆す心がないわけではない。
「 ──── みなちゃん」
会いたさに聞こえた幻聴 ってわけではなさそうだ。だって足音まで聞こえてきてるんだから……
「ミクちゃん、いらっしゃい、でももう店閉めてもてん。また営業時間に来てくれる?」
いつもは食堂の営業時間に来て、隅っこで食事を取りながら話すタイミングを見計らっているだけなんだけど、今日は違ったらしい。
営業終了後に、二人だけ。
完全に、話し合いをするためのタイミングだ。
「うちも片付け終えて、事務の方をしてしまわんといかんし、ごめんなぁ、ちょっと遊んであげられへんわ」
はは と笑いながら脇をすり抜けようとしたところで、腕を掴まれた。
ミクの性格上そこまで踏み込むようなことをしないと思っていただけに、転びそうになったのをなんとか堪えて立ち止まる。
「な、なに 」
「好き!」
「な、なんなん⁉」
「好きですっ!」
「や、やから……」
ぐい と近づいてきたミクの顔に仰け反りそうになったけれど、その両方の目がしっかりと自分を映していることに気づいてどきりとした。
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