622 / 698

落ち穂拾い的な 二人の結末 1

 洗い物を担当していた人間も返し、最後のチェックとわずかに残った汚れを片付けて……これで本日の業務は終了だった。  最初は慣れない立ち続けの仕事に足が痛み、浮腫んで大変だったけれど、最近はそれも少し慣れてきたのかだいぶマシになっている。  それでも立ち続けたことによる腰の痛みに顔をしかめて…… 「これはこれでエラい仕事やな」  思わずポツンとこぼす。  独りでただただ子供と再会することだけを考えて生きていた頃からは考えられないような生活だとは思う、でも……それでも息子の傍にいるのを許してもらえるということが、こんなにも幸せだとは考えなかった。  一目会えたらそれで満足だった。  少し話してみたいと思った。  好みや考え方を知ることができた。    普通の親子のように一緒に出かけたりして……欲が出たのは否めない。  でも、それでも人生の目標である子供との再会を果たせたのだし、和歌の役にも立てたのだからそれでいいと思っていた。まさか息子が自分の命乞いをしてくれるなんて、夢にも思わなかっただけで。  自分を手放した親を恨んでないのかと聞きたくなったことは何度もあったけれど、しずるはそんなことに頓着してないように自分の身を差し出してまで庇ってくれた。  大神や瀬能を欺いた手前、命があってもまともな扱いをしてもらえるとは思っていなかった。地下牢みたいなコンクリ剥き出しの部屋に繋がれて、怪しげな薬を打たれ続けて……なんて生活を想像していただけに、研究所で働いてもらう、研究所から勝手に出てはいけないと言われた時は拍子抜けだった。  給料は夜職働いていた時のようにはいかなかったけれど、多分……一般の食堂で働いている人間ならこれくらいはもらうだろう程度は出ている。  瀬能の許可が降りない限り、この研究所で働き、ここで暮らす以外は人間らしい生活だった。  軟禁 と言ってもおかしくないのかもしれないけれど、息子の出入りする施設で暮らして、タイミングが合えば息子とその番と会えるこの環境は破格だ。  瀬能が何を思ってこんなふうにしてくれているのかはわからないけれど、自分自身の血統が持つ『任意発情』できる部分を調べたいのだと言っていた。  昔から悩まされ続けていた発情に、何らかの価値があると言われてもよくわからない話だ。  とはいえ、大神に掴まって三途の川を見せられた時はそんなことどうでもよくなってしまっていた。  もう関係なくなる、叶えられた望み以外をすべて捨てて楽に…………と、思っていたのに、一つだけ、捨てられなかったものを思い出して思わず唸る。    

ともだちにシェアしよう!