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雪虫5 94

「初めまして、食堂では何度かお見かけしたんですけど……ご挨拶はまだでしたね」 「初めまして……こちらこそすみません、挨拶もしなくて。オメガの集会だって聞いてたからオレが入るとよくないかなって思って……」 「そんなことないですよ! 今度皆で話しましょうよ!」  屈託なく言われ、気まずいけれど一度くらいは参加した方がいいのかもしれないと思う。  雪虫のっ番はっオレだ! って、一度ちゃんと言っときたい。 「雪虫の隣の席は僕なんですけど、お譲りしますから!」    く と喉に何かがつっかえた気分がした。  雪虫の隣はもともと番であるオレのものだ。  それがΩの集会っていう限定的なものの話をしているのは十二分にわかってはいたけれど、この感情はそういうものじゃない。  思わずオレは目の前の少年をねめつけるように見る。  明るい髪色と懐っこそうな黒い瞳、Ωの中では少し背が高めかな? とは思うけれど、中肉中背の体格だ。  好感の持てる外見かそうでないかは置いておいて、不審に思うようなところはない はず。 「初めましてって言ったけど、雪虫から番の話はよく聞いてるんで、初めてな感じしないですね」 「仲、いいんですか?」  雪虫からΩ達の集まりのことを話してもらうことはあるけれど、そこはαがあまり踏み込んじゃいけないΩだけの会話があるだろうから、詳しく問いただすようなことはしなかった。  いくら番だからって、相手のことを一から十まで知るべきじゃないと思う……知りたいけど。 「うたやセキの次には仲がいいグループにはいるんじゃないかな? みんなでお部屋にもお邪魔させてもらったこともありますよ! 素敵なものがたくさんでしたね、番さんが集めてくれたんだって雪虫が一つずつ説明してくれて    」  それに気づいた瞬間、巳波はニコニコとしてくれているのにさっと怒りが湧いた。  押し込めきれない感情はあっという間にオレの表面を覆い尽くして、雰囲気の変化に瀬能が目を瞬かせたくらいだ。 「黙れ」 「え⁉ つ、番さん? ど、どうされたんです?」 「  ──── お前だ」  低い声が溢れて、顔合わせも済んだし とほっとしていた瀬能がさっと顔色を変えるのが見えた。  巳波もオレの突然の言葉に意味がわからなかったんだろう、きょと として子犬がするように首を傾げて……  不思議そうにする巳波に向けて人差し指をさっと出す。  今以上に、この指が人を刺し抜けるほど鋭ければと思ったことはなかった。   「お前、あの臭いを残してたアルファだろ」 「な、なにを……」 「オメガの匂いを纏ってるけどバレてるぞ。お前、アルファだろ」  オレはあの日、シーツに残されていた嫌悪を感じる臭いを思い出して顔をしかめた。   END.

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