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落ち穂拾い的な 首輪の下の咬み傷 4

 喜多は、普段しないのは巳波なのに という言葉を飲み込んで神妙に頷いた。 「…………僕は、心が広いから、……許してあげなくもないんだけど」 「うん、ありがとうね」 「でもただ許すのは、嫌」  つーんと拗ねた様子の巳波のご機嫌を取る方法を考えて、喜多は深いため息と共に肩をすくめる。 「じゃあ、一生をかけて償っていく」 「そ、そんな壮大な話、保証ないでしょ!」 「だから、証に項を噛ませて?」  ちゅ と耳元にキスすれば、大袈裟なくらいに巳波の体が跳ねて顔が真っ赤に染まっていく。 「この指輪も   」  サイドテーブルから取り出したのは保留にされていた結婚指輪の箱だ。  中には1カラット越えダイヤのついた指輪が厳かに収められている。 「  受け取って。逃げる時にはちゃんと持っていくんだよ?」 「に、逃げるの前提?」 「逃がさないつもりだけど、巳波ちゃんが逃げたくなったらこれを売って逃走資金にしたらいいよ」 「そんなことして、いいの?」 「いいよ。巳波ちゃんのしたいようにしたら。それに、シェルター以外ならどこでも迎えにいけるからね」  ずっしりと感じるダイヤモンドの指輪を薬指に嵌められて、巳波は複雑そうな顔でチラチラと喜多を見る。  いて欲しいと言う割に逃走資金を用意する、逃がす割に迎えに来ると言う。  喜多の考えは巳波にとっては複雑怪奇だった。  すがりつくのに自分の考えを妨げない、そんな思考をする人を巳波は知らなかった。 「もしかしなくとも、喜多さんってめちゃくちゃ僕のこと好きなの?」 「実はめちゃくちゃ大好きなんだ」 「どれくらい好き?」 「三食昼寝付きおやつ付きでマッサージもつけられるくらい、一生ね」 「喜多さん、僕のことめちゃくちゃ好きなんだ」 「うん、大好きだよ」 「ふーん………………あっそ。それなら、僕、も、ちょっとだけ喜多さんのこと好きだから、それだけ言うなら、ちょっとだけ譲歩してあげてもいいんだけど。ちょっとだけね」 「うんうん! ちょっとだけでいいよ」  飛びつきたいのをグッと堪えながら、喜多は優しく微笑んで巳波の髪の乱れをそっと直す。 「    結婚して、項も噛んでいいよ」  ぽそ と言うと、巳波は保護された動物のようにさっと部屋の隅に行ってうずくまってしまう。 「……え? 巳波ちゃん?」 「……じょ、譲歩だよ! 妥協だからね! 首のも見られちゃってるしっこれが気持ち悪くないなんて言う人、他にいないだろうから仕方なくだよ! そこんところちゃんと理解してる⁉︎」 「してるしてる!」  耳の先端、目元、頬、唇に喉元にそこから続くすべての箇所を真っ赤にして、巳波はそろりと潤んだ瞳で喜多を見上げる。 「……じゃあ、もっとロマンチックなプロポーズして」  照れ隠しのように言うと、巳波はさっと喜多の胸の中に飛び込んだ。 END.  

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