696 / 698
落ち穂拾い的な 首輪の下の咬み傷 3
元々引きこもり気味で、連絡先も無くしてしまった今、巳波には頻繁に連絡を取り合うような友人もいない。
そして不完全な体であるが故に、シェルターには駆け込めない。
そんなΩを、閉じ込めるなんて造作もないことだ と薄く喜多は笑った。
寝室にもつれるようにして入ると、喜多はベッドへと巳波を押し倒す。
「そ、そういうので誤魔化したって、僕は流されないからね!」
腕の前で手をがっちりと組んだ巳波は喜多に触れさせまいと必死だ。
けれど、喜多はその体がどれほど敏感に変わっていったかを知っていた。巳波の体は至る所が性感帯で、その思考をぐずぐずにするのに手間はかからない。
ちょっと強引に愛撫して蕩けたところを拘束してしまえば、巳波は一生どこにもいかない と、喜多は笑顔を貼り付けて巳波の頬に触れる。
いつものように、叱られた犬の雰囲気を作り、心から謝罪の言葉を出す。
「ごめんね」
「……」
「巳波ちゃんって、苦しそうにしてても全然ネックガード外さないから……つい、気になっちゃって」
「誰にだって、知られたくないことってあるでしょ! それをずかずか覗きに来るのはデリカシーに欠けるよ」
巳波の口から珍しく飛び出した正論に、喜多は言葉を失って唇を引き結んだ。
自分自身にだって、巳波に知られたくない過去がある。
大好きで大好きで求めすぎた結果、恋人は性行為の多さに耐えられないとシェルターに逃げ込んでしまったことがある。
お互いに愛し愛されて仲良く過ごせていると思っていただけに、唐突についていけないと手紙を残されて一方的に別れを切り出されて……
その傷は確かに塞がってはいたがそこをつつき回されて気分がいいかどうかは別だ。
「それは……ごめん、でも見ちゃったのは本当に偶然で、わざとじゃないんだよ?」
「 、わ かってるけど……」
首のネックガードに触れて、巳波は押し黙る。
この傷は、いくら振り払おうとしても消えない過去だ。
消すことも乗り越えることもできず、ネックガードで隠して見ないようにするしかなかった存在。
「僕は、これを知られたくなかったよ」
これは、自分が屈してしまった証だったから、巳波には絶対に許せない出来事だった。
「知っちゃって、ごめんね」
好きな人のすべてを知りたいと思って設置してあるカメラが切り取った真実に、喜多は項垂れるしかない。
心の底から、少しだけ罪悪感が滲みだしてくる。
「気持ち悪いと思ったでしょ」
「ううん! 痛そうとしか思わなかったよ!」
「僕は思う。だから、誰にも見せたくなかった」
「俺が、悪かったって心から反省してる」
「本当に悪いと思ってるの⁉︎」
「もちろんっ」
「……ちゃんと扉を開ける時はノックする?」
「します」
ともだちにシェアしよう!

