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落ち穂拾い的な 首輪の下の咬み傷 2
小さな円形の傷の並ぶそこは、綺麗な皮膚ではない。
幾度も噛みつかれてできた痕は盛り上がって気持ち悪いと自分自身ですら思うほどだった。
これもαによるΩへの躾の一環だ。
いうことを聞かない巳波に対して、祖父や父は繰り返し犬をけしかけ、首を噛ませて擬似交尾を強要して……
大きな犬が首に食らいついて体を痛めつけた後、腰を擦り付けて精液をぶちまけて心を折る。
それが幾度繰り返されたか、巳波は覚えていなかった。
ただ重なる歯形の痕の分だけそれが行われたのは確かで……
「こんな首、噛ませるわけにはいかないよね」
自分でも気持ち悪いのに、他人がどう思うかなんてお察しだ と、巳波は再びネックガードを手に取る。
「後ろ盾もない、ちゃんとしたオメガでもない、首にはこんな傷がある、そんなオメガを番にできるわけがない」
もししたとしても、捨てられる未来しか見えないんだから と巳波は自重気味に笑った。
かちん とロックがかかったのを確認して振り返ったのと、喜多が息を荒げながら洗面所に飛び込んで来たのは同時だった。
汗が伝って顎から滴るほどだからよっぽど急いできたのがわかる。
「 お、おかえり」
首を見られなかったことにホッとしたのも束の間、喜多の手がさっと伸びて洗面台に置いたままになっていたネックガードの鍵を取り上げてしまう。
「ちょ な、なに⁉︎」
「巳波ちゃん……さっきの、なに?」
「――――!」
思わず首を押さえて後ずさると、「いつ見たの⁉︎」って大声をあげた。
喜多が飛び込んできたタイミングを考えれば、ネックガードの下の傷を見ているはずがない。
「っ………………扉の、隙間、から」
実はここにもカメラが仕込んであるんです とは言えず、苦し紛れにドアを指差す。
「覗き見なんて最低っ! 喜多さん最低っ!」
そう喚きながら脇をすり抜けていく巳波を捕まえ、喜多はしどろもどろとでもでもだってと繰り返した。
「〜〜〜〜っもうっ、もういい! ちょうどいいタイミングだから別れよ!」
「巳波ちゃん⁉︎」
「覗き見するような人とやってけない! 番だけじゃなくて結婚もしない!」
「そ そんっ 」
じたばたと腕の中でむずがる巳波を押さえつけ、喜多は頭の中が真っ白になった。
とにかく、何をしても引き止めないと駄目だ と、喜多は巳波を押さえ込みながらチェストの奥にしまってある拘束具を思い出す。
手首と足首をベッドに拘束できるようにと買い求めたそれを使えば簡単に捕まえておくことができるだろう。
巳波の親族はほぼ音信不通と思って間違いない状況だ。
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