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落ち穂拾い的な 首輪の下の咬み傷 1

 何度目かの発情期を終えて、喜多はとうとう言おうと心に決めた。 「巳波ちゃん、ずっと一緒にヒートを過ごしてるのは、僕のことを信用してくれているからだと思ってる。だから……次のヒートで、番になってくれないかな? そして、結婚して欲しい」  二人とも発情期明けでヘロヘロだと言うのに、喜多はベルベットの箱を開きながら丁寧に片膝をついて告げた。  巳波は一瞬パッと喜び、その後ムッと唇を曲げてそっぽを向いてしまった。  最初の表情は肯定だったが最後の態度は否定だった、喜多はその落差についていけず、返事はどうなんだろうと身を乗り出した。 「け こんは、してあげてもいい。けど、番はやだ」  巳波から帰って来た返事は、半分は是で半分は否というおかしなものだった。 「こら! もち! それはお前のご主人様だぞ! おしっこかけちゃだめだ!」  そう叫び声がするも、喜多は動かずに温まっていく足元の感触をぼんやりと感じているだけだ。 「セックス直後がダメだったのかなぁ……もっとレストランとかクルージングとか、オーロラの下でとか、そんなんじゃなかったから半分断られたのかなぁ」  まるで抜け殻のようだ と、悪友は横目で見ながら呟く。  絶倫すぎて恋人がシェルターに逃げたってことがあって以来、ちょっと拗らせてはいるけれど喜多はαにしては当たりのいい人間で、ドン引きするほど絶倫って部分以外はいい奴だと知っていた。  そんな喜多が半分振られたっていうのは、よくわからない話だった。 「結婚はOKで、番はNGなんだろ? なんでだ? 番っちゃったら他のアルファとセックスできなくなるか     ひぃ」  一瞬で変わった喜多の雰囲気に、ココアもちがキャンキャンと吠えながらおしっこを漏らす。 「やっ違うかもってか違うと思うからっ聞いてこいよ!」  悪友は汚れるのも構わずにココアもちを抱き上げ、「じゃあ帰るから!」って叫びながら消えていった。 「……他の、アルファ…………」  そんなことをしようとしているんだろうか?  自分とのセックスだけじゃ満足できなかったっていうことなのか?  喜多はそう考えて、家への道をふらりふらりと歩き出した。  巳波は洗面所の鏡の前で、気持ちを奮い立たせながらネックガードを外す。  発情期以外はネックガードをしないΩもいる中、巳波はしっかりと頸を覆う実用性の高いものを使っていたし、眠る時もそれを外すことはなかった。 「…………」  ネックガードを外すと、うら寂しく感じる。  それほど馴染んだものの下にある傷に、巳波は項垂れるしかなかった。

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