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落ち穂拾い的な 好きなところを挙げよう!
バーのスツールを軋ませながら、悪友は喜多に怪訝な表情を向ける。
「ほんっとうに……どこに惚れたの? 話聞いてるとちょっと面倒臭そうなんだけど、その子。好きになる要素ある?」
「んー……超雑魚いところ」
そう言うと喜多は琥珀色の液体の入ったグラスをくるりと回して香りを楽しむ。
「てんで雑魚のクセに上から目線でイキリ散らすわりに、ちょっと睨まれたらキャンキャン吠えながらおしっこどころかうんこまで漏らす勢いで怯えまくって、なのにそれでもまだしっぽ股に挟んでキャンキャン言って虚勢はろうとするところ」
可愛くない? と悪友に尋ね返すが、同意は得られなかった。
「いろいろ垂れ流しながら警戒してキャンキャン言ってるのに、頭撫でたらころっと掌から餌を食べる姿も可愛いと思う」
つまり、各方面で雑魚いということだ。
悪友は自分の目の前に置いてある泡の消えたビールを眺めながら、喜多の恋愛観はどうなっているんだろうと自問自答する。
「ちょっと美味しいおやつあげたら腹どころか股間丸出して媚びてくるのもいいよね。疑り深いのに全然疑わないのも可愛いよね、発情誘発剤飲まされて美味しいとか言っちゃうの、ホント可愛い」
「本当に好きなんだよな?」
「え? 大好き」
なんの戸惑いもなく返される言葉に嘘はないのだろうけれど、物には言い方がある。
「本当に本当に、本当?」
悪友は念の為に何度も何度も念を押すようにして確認したが、その度に返ってくるのは蕩けるような笑顔と「うん! 大好き!」という軽快な言葉だった。
「ココアもちを見た時さぁ、めちゃくちゃそっくりだって思ったんだよね」
「へーほーふーん」
気のない返事をして、小皿の中ピーナッツを掴んで茶色い皮を剥く。
喜多の恋愛観が歪んだ原因は以前の恋人との間にあるとばかり思っていたけれど、この言動を聞いているとそれだけじゃないんだとわかる。
そもそもこの男の性格自体が捻くれているんだ。
「もう一目惚れだよね」
「その一目惚れを人ん家にずっと置きっぱなしだけどな」
「そうなんだけど、巳波ちゃんが怖がるんだよね」
「もうきちんと躾もして、無駄吠えも飛びかかりもしなくなったぞ」
「ええっそんなのココアもちじゃない!」
「お前なぁ」
悪友は、「躾のされていない犬はそれはそれで不幸だろう」と険しい顔で呻く。
「でも、可愛いものは可愛いし、リードで繋いでたらどこにも行かないし」
悪友はほのかに浮かび上がる喜多の狂気に気づき、こちらに引き戻すように大きく溜息を吐いた。
「あ、リード外しても勝手に走って行かないように躾したからな」
「だから! そんなのココアもちじゃないってば!」
ちょっと子供っぽく言い返す喜多を見て、悪友はこれ以上彼の恋愛観が歪になりませんようにと祈った。
END.
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