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第14話
森部長を呼ぶと、すぐさま「あらー、マジでやっちゃったか」と呆れた顔をしつつ、「清浦は大丈夫? ……聞きにくいけど、とりあえず、聞くね? どこまでされた?」と真剣な顔をして聞いてくれたので、彼方も、落ち着いて答えることが出来た。
正直に、されたことを言うと、森部長は「承知した。とりあえず、今日は、もう帰って身体を休めな? ……そんなに、泣きじゃくって、可哀想に」と、ハンカチを出してくれた。ぴしっとアイロンが掛かったハンカチは、柔らかな柔軟剤の香りがした。それに、少し気分が落ち着く。
「こいつは、私の一存で、明日から出社停止にするからね。清浦は、会社に出勤するのが辛いようなら、在宅勤務でも構わないからね」
二度と、西園寺と顔を合わせないで済んだのは、良かったと思ったが、脚が震えて、うまく歩くのも出来なかった。恥ずかしくてたまらなかったが、そのまま、執務室に戻らずに帰宅して良いと言うことで、大樹も付き添いで帰ることになった。
帰宅は、タクシーだった。タクシーの中では無言だったが、大樹の家へたどり着いて、リビングのソファに座った瞬間、堪えていた何かが爆発したみたいに、涙が溢れて止まらなくなった。
「ちょっ……彼方……?」
狼狽える大樹にしがみついて、大樹のぬくもりと匂いを確かめる。それを全身で感じながら、彼方は小さく呟く。
「ごめんなさい」
「えっ?」
「……大樹の言った通りだった……、俺は、あの人が、こんなことを。するなんて、思わなくって……」
何度も引きつけを起こしながら、彼方は、必死に言う。
「無理するな……」
「……いやだった……本当に、あんなのに、触れられて……」
身体の奥に、まだ、あの媚薬の効果が熾火のように残っている。それが、不愉快だった。大樹と共に楽しむならば良い。けれど、あの男に与えられたものだというのがいやだった。
「……あの、ね……、あいつに、ローションタイプの、媚薬を、使われて……」
「えっ?」
大樹の顔色が、さっと青ざめる。
「……あいつに、全部はされてないしけど……奥にローションが残ってるのが、気持ち悪い……。あいつに触られたところも、全部、不愉快で、いや……っ!」
「じゃあ……、シャワールームに行こうか。全部、綺麗に洗い流そう……奥まで……」
そういえば、二人でシャワーを浴びたことはなかった気がする。
いつもならば、恥ずかしいと言って、拒否するところだったが、今日は、その言葉に乗った。
「うん……」
大樹の部屋のシャワールームは、ガラス張りのユニットで、レインフォールシャワーになっている。広々とした浴槽は別にあるので、贅沢な作りだ。同じ会社の同僚としては、おかしなほどの経済格差があるような気がするが、実家がだしてくれたものらしい。
「……かな、は」と彼方の身体中に手を這わせながら、大樹は呟く。「いつも、一緒にシャワー入らないから、ちょっと物足りなかったんだよね……しかも、見せてもくれないし」
「あ、当たり前っ……っ!」
恥ずかしいから、当たり前だと言いたかったが、言えなかった。
大樹の指が、彼方の奥まったところに忍び混んできたからだ。
「……っ!」
「……かな、壁に手を突いて……そう。で、もうちょっと、お尻をこっちに上げて?」
恥ずかしい格好をさせられているような気がしたが、抵抗出来なかった。内部を探る、大樹の指の動きが、淫猥過ぎた。
「あっ……っんん……っ」
「俺、このタイプのシャワールーム好きなんだ……こうしてても、俺の両手は自由だし。それに……」
と甘く、大樹が彼方に囁く。
「……雨の中で犯してるみたい」
「っ!!!」
「……中、とろとろだね……。ローションかどうか、掻きだしてみないとね」
中から、粘液を掻き出すような動きで、内壁を強く抉るように、大樹の指が動く。
「っ……あっ、ああっ、っあ、や、あ……っ」
「うん、ちゃんと、ローションみたいだね……良かった。あいつが、ここに、中だししてたら……俺は、誰に止められても、あいつのモノを切ってただろうからね」
「って……っんん」
中を、大樹の指が執拗に探る。ただでさえ、過敏になっていたそこが、内壁が、もっと、熱いモノで満たして欲しいと訴えている。
「あ……、も……おねが……、大樹ので……して……」
「もう?」
「……おねが……」
必死に哀願しながら、腰が蠢いている。指も気持ちが良いけれど、もっと、もっと欲しい。後始末が大変なのは解っているけれど、中に、吐き出して欲しい。恣にして欲しい。
「まったく……。これに懲りたら、もう、妖しい薬は、貰ってこないように……良いね?」
こくこくと頷きながら、彼方は答える。
「うん、うん……約束、する、からぁ」
「媚薬がなくたって、ケーキもお酒も、全部、かなのものだよ」
何のことか、よく解らなかったが、問いは口から出ることはなかった。大樹が、一気に腰を進ませたからだ。散々ほぐされた奥は、柔らかくて、一気に大樹を最奥まで受け入れた。待ち望んだ肉の、熱い感触を受けた彼方はね瞬間、記憶が、何度か断絶するのを感じていた。
「あっ、あ……っ……あ――――っ……っ!」
じらされた分、酷い快楽に身体がわななく。膝が笑って、立っていることも出来なかったが、大樹が腰を抱えて、後ろから、小刻みに、抽送を繰り返した。
「あ、あっ、うっ……っぁ……っ」
「……かな」
甘く、名前を呼ばれる。必死に、壁に縋り付きながら、執拗に突き上げてくる熱い楔の、与えてくれる感触に、彼方は満足しながら、意識を手放した。
彼方が気がついたのは、ベッドの上だった。
大樹はまだ、満足して居ないらしく、意識のない彼方を、なおも抱いていたが、時計を見ると、明け方近いことに気がついて、ぞっとしたものだった。
それから、なんとか大樹が満足したあと、二人で、そのまま、仮眠を取って、朝食の前に、少し裸のままで、戯れていたら、再び、大樹の欲望が雄渾さを見せつけてきたのには、さすがの彼方も、閉口した。
「……大樹が……こんな性欲魔神だったとは」
「かな、もだろ」
「俺より、大樹のほうが凄いよ……あーあ、どうしよう。今日、仕事さぼりたいな……」
「……サボって……ゆっくりしようか」
二人で、顔を見合わせる。
思わず笑ってしまった。
「……ねえ、さっきさ、ケーキとお酒って言ってたの、アレ何?」
「えっ? 言ってないよ。……とりあえず、朝飯にしようか。……かなは、パンと、ご飯どっちが良い?」
「んー……、今日は、パンかなあ」
「オーケイ。じゃ、もうちょっと寝ててよ」
颯爽と、朝食の準備に向かう大樹の背中には、痛々しい、二条の真紅の爪痕が残っている。昨日の夜、感じ過ぎて、爪を立てて縋り付いてしまった名残だ。そして、帯する、彼方の身体にも、あちこち、鬱血のあとが残っている。この、情事の痕跡の色濃い身体では、ちょっと、オフィスには行きづらい。
今日は、休むと連絡を入れるためにスマホを手に取る。
ふと、思いついて、検索を掛けてみることにした。
cakes and ale。
【人生の快楽、浮き世の楽しみ。】※
思わず、顔が、赤くなった。
了
※
https://ejje.weblio.jp/content/cakes+and+ale
Weblio 辞書より引用
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