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第13話
ひんやりとした、ぬめる液体の、そのぬめりを借りて、西園寺の指が、入り口をゆっくりと撫でた。
冷たい―――と思ったのは一瞬で、すぐに、そこが、熱を帯びる。ローション自体に、感度を上げるための何かの成分が入っているのだろう。
「えーと、臀部のこうして、入り口に、ゆっくり塗り込めていけば良いんだよな……? ああ、中にも、まんべんなく塗れって書いてあるな……こんな所……入るもんかね……」
男性と、関係を持ったことはないのだろう。
西園寺は、彼方の入り口を観察しながら、ゆっくりと指を沈めていく。
「っ――――――っ!!!」
指の侵入を、そこは許している。ゆっくりと、ゆっくりと。
「……凄いな……、指が飲み込まれてく……、これ、どこが感じるの……? ……って、指を入れてたら、答えられないか。まあ、いいや、好きに探らせて貰うか……っと」
西園寺が笑ってから、彼方の耳元に囁く。
「なんだよ、締め付けてきてんじゃないか……。ほら、きゅんきゅんしてる……」
西園寺相手に、感じてしまったことが恥ずかしくて、羞恥に、身体が熱くなる。
「……すご……使い込んでんのかな、指一本くらいだったら、スムーズだな。ほら、二本に増やして欲しい?」
誰が、そんなことをねだるか! と内心毒づくものの、確かに、満足度は低い。燃え上がるように、そこが熱くてたまらなくて……本当は、どうすれば、満足出来るのか、良く知ってる。だから、欲しくてたまらなかったが、なんとか、堪える。
「……俺に乗り換えたら、良いんじゃない? 嫉妬深い彼氏なんか、捨てちゃえよ」
(誰がっ!!!)
必死に抵抗を試みる。けれど、身体は燃え上がってしまったように熱いし、意識はもうろうとして居る。
「身体のほうは正直だな……ほら、俺が欲しくて、腰が動いてる。指の一本じゃ満足出来ないよなぁ。おねだりもしないけど、サービスしてやるよ」
指を増やされて、その、圧迫感に違和感があった。大樹の感触とは、違う。大樹の探り方とも、違う。けれど、さっきより、気持ちが良かった。内壁を、しっかりと抉られるようにして、擦られるのが、気持ちが良くて、溜まらない。
(もう……)
視界が、涙でにじむ。堪えているのも辛いし、早く満たして欲しい。けれど、助けは、来ない。
「……ほら……、なんなら、彼氏には黙っててやっても良いし……。次のプロジェクトは、一緒に……、こういうことも込みで、楽しくやろうよ」
耳から、直接毒を流し込まれているように、思考が麻痺していく……。
(でも……)
ここで、西園寺の誘いに乗ってしまったら、大樹とは、別れることになるだろう。それは、いやだった。
(だって……)
抱かれるなら、大樹が良いし、今は、大樹以外の人と、関係を持ちたくない……。
まだ、自由になる脚で、西園寺の向こうずねを蹴るが、後ろ蹴りなど、殆どしたことはないので、何の威力もないようだった。
(……あとで、絶対に、なにか習いに行こう)
「……まったく、カワイイ抵抗とかしちゃって……煽ってるの?」
余裕の声が聞こえてきて、腹立たしい。そもそも、西園寺のせいで、大樹と喧嘩になったのも、気に入らなかった。
(全部こいつのせいじゃないか)
「……まあ、この調子だと……、とっととヤっちゃったほうが、おとなしくなるかな」
はは、と西園寺は笑う。
冗談じゃない、と彼方は思ったが、口と奥から指が抜かれ、両手でがっしりと腰を捕らえられた。そのまま、臀部に降りていき、そこを開かれる。
先ほどまで指が入っていたそこは、ぽっかりと空隙を開けて、ひくっと蠢いたのが解る。
「物欲しそうな顔しちゃって……。まあ、たっぷりしてやるから……」
西園寺が、腰を近づけてきたのが解る。妙に、スローな瞬間だった。暴れても、腰を捕らえられているから、抵抗にもならない。
(嫌だ……っ大樹……っ!!)
ぎゅっと目を瞑る。身体が、こわばった。
「そう、緊張するなよ……あいつより、良くしてやるか……」
勝利を確信した甘ったるい声は、途中で途切れた。ややあって、鈍い打撲音。そして、どさっと音を立てて、西園寺がひっくり返っているのが解った。
「……えっ?」
振り返ると、そこにいたのは、大樹だった。
「……な、なんで、大樹……?」
「会議室の予約、時間終わってるのに戻ってこないから……念のため」
「あっ……」
「来てよかった……。ちょっと、まず、服……なんとかしろ……そしたら、上司呼ぶから」
「えっ? なんで?」
「……はあっ? お前、この状況で、強姦されそうになったんだぞ? この場に呼ばなかったら上司も納得しないだろって」
言いながら、大樹は、手早く西園寺の手をネクタイで戒める。
「……まったく。だから、俺は、こいつと、一緒に、仕事はさせたくないって言ったんだよ……。絶対、こいつ、お前に手を出してくると思ったから」
反論は出来なかった。
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