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 いつも通りにご飯をぱくつこうと口を開けるけれど、どうも胃がムカつく。だけど今日のおかずは俺の大好きなトンカツだ。なのに胃がムカついていつも通りパクつくことができない。   「どうしたの? 美味しくない?」 「いや、美味しいよ。美味しいけど、胃がムカついてさ」 「またポテト食べてきたの?」 「うん」 「だからよ。揚げ物やめれば良かったわね。胃がムカつくならお茶漬けにでもする?」 「いや、トンカツ食べる」 「無理しないでよ。後で吐いたりすると大変だから」 「うん」  胃のムカつきを押しやり、なんとか食事をすませる。せっかくのトンカツだったのに、しっかり味わって食べることができなかった。 「トンカツ食べたあとに言うのもなんだけど、あまりムカつくなら胃薬飲んでおきなさい」 「そうする」   薬箱の中から胃薬を出して飲む。きっとこれで落ち着くだろう。そう思うと少し気が楽になった。  そう、気は楽になった。気は! だけど胃のムカつきは収まらない。  風呂に入って、買ってきた漫画を読んで、寝る時間になっても胃のムカつきは健在だ。とにかく寝よう。明日も学校だし。  そう思って寝たけれど、夜中に酷い吐き気で目が醒める。急いでトイレに行き、便器に吐いたのは花だった。紫の花。なんだっけ、見たことはある。ライ……そう、ライラックだ。  いや、待てよ。ライラックだろうがなんだろうが、花? いや、いやいやおかしいだろう。普通、食べたものとか吐くんじゃないのか?それが花ってないだろう。  夢。夢? そうだ。夢を見てるんだ。だって俺は寝てたんだ。だから今もまだ寝ていて夢の中なんだ。  とは思うものの、なんとなく親が見たら心配しそうだよな、とそこは冷静に思って、花はトイレットペーパーに包んで部屋に持って行く。そして、速攻、ベッドに入って寝た。  朝、目が醒め、夢だと思いこもうとしていた花は、残念ながら部屋にあった。  そして気づく。昨夜、あんなに酷い吐き気だったのに、この花を吐いた後は胃がすっきりしたことに。いや、待って。じゃあ俺はこの花を吐きたかったというのか? 花を吐くなんておかしいだろう。  そこで、スマホを取り出し、検索する。花を吐くなんて現実にあるのなら、何か情報あるだろう。まさか、俺だけだなんて言うなよ。そしてヒットした。    嘔吐中枢花被性疾患。通称、花吐き病。  なんだこれ。こんな病気初めて知った。それもそのはず、奇病で、難病扱いされているらしい。そりゃ、花を吐くなんて普通はないんだから奇病だろうよ。難病扱いにもなるだろうよ。いや、でもほんとに花吐き病なわけ? いや、症状はぴったりあってて疑いようもないけど、信じたくない気持ちがある。病院! そうだ、病院に行こう。体調が悪いときは病院に行く。これ、基本。 「陽翔ー! 早くしないと遅刻するわよ」 「はーい」  スマホを掴むと、急いで下に降りる。 「ねえ、保険証どこにある?」 「保険証? そこの棚の二段目にお薬手帳なんかと一緒にあるけど。なに? どうしたの? 具合悪いの?」 「あー。うん、ちょっとね。胃がね」 「大丈夫なの?」 「うん、今は落ち着いてる。でも帰りに病院寄ってくるわ」 「そう? 休まなくて大丈夫なのね?」 「そんなんじゃないから大丈夫だよ」 「食べられるなら、少しでいいから食べて行きなさい。空腹も気持ち悪くなることあるから」 「はーい」  さすがに花を吐いたから病院に行く、とは言えずに昨夜の吐き気を言い訳にした。まぁ、でも胃がムカつくくらいで病院なんて、って言われなくて良かった。とりあえず、保険証を財布に入れ、学校に行った。

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