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「陽翔、今日はゲームできるだろ」 「ごめん、ちょっと病院行きたいんだ」 「病院?」 「うん」 「なんだよ。どっか悪いのか?」 「ちょっと胃がね」 「大丈夫かよ。ま、いいや。もし病院終わってできそうならうち来いよ」 「うん、そうする」  放課後、二日連続で拓真の誘いを断る。ゲームはしたいけど、昨夜のことが気にかかってはおちおちゲームも楽しめない。  「花吐き病ですね」  放課後寄った病院で医者にそう断言された。 「え? 他の病気ってことは……」 「ないですね。花を吐く病気は花吐き病以外にありません」  だよな。そう思う。気持ち悪くて花吐いたわ、なんて話聞いたことない。 「吐かれた花を触りませんでしたか?」 「吐かれた花?」 「ええ。この病気は吐かれた花を触ることで感染するといわれています」 「吐かれた花かわかりませんけど、花は触りました。バイト先のトイレに落ちていたので」 「では、その花がそうですね」  まじか。あの花が原因か。確かにトイレに落ちてるんだから、それが誰かが吐いた花と考える方が自然だ。服についてたんじゃなかったのか。 「あの、どのくらいで治るんですか?」 「それは患者さんによります。この病気は片想いを拗らせて発症するので、想いが通じればすぐにでも治ります」 「え、それじゃあ、叶わない場合は?」 「その想いを昇華したときではないでしょうか? とにかくその拗らせた想いがなくなったときに治ります。白銀の百合を吐くことが完治の印です」 「お薬とかは……」 「一応、胃薬を処方はしますが、あまりあてにはしないで下さい。気休めのようなものですから。治したいのなら、想いを昇華させることです」 「はぁ……」  想いが通じればって簡単に言うけど、そんな簡単なものじゃないだろ! と心の中で毒づく。世の中、簡単に両想いになると思うなよ。あんなの奇跡みたいなものじゃないか。そして、相手によっては絶対にありえないことだってあるんだ。そう、俺の場合は後者で絶対にありえない。断言できる、だって相手は幼馴染みなんだ。しかも性別は男。だから、両想いになるなんて絶対にありえないのだ。ということは、なんらかの形で昇華させない限りは治らないってことだ。そんなの最悪だ。  そんな最悪な気持ちのままゲームをする気にもなれずに、拓真には『行かれない』とメッセージを入れた。すぐに既読になり『またな』と入ってくる。こうやってさっぱりしているところが拓真のいいところだ。そういう拓真は一番仲の良い友達だ。親友って言っていいんだと思う。でも、さすがにこのことはすぐに話す気になれない。というか、気持ちの整理が必要だ。 「おかえり。病院どうだった?」 「え? あ、あぁ、うん……」 「なによ、はっきりしない子ね。何か大きな病気か心配してたのよ」  あぁ、どうしよう。花吐き病でした……なんて言うのか? 一応立派な病気らしいけど。なんでもなかったと言うか? あ、ダメだ。薬貰ったんだった。それに、あそこの病院は家族でかかってるから、何かで親が行ったらバレてしまう。でもなぁ……。  「なに? なんかあったのね。どんな結果でも驚かないから言っちゃいなさい。あんた隠し事できない子なんだから」  そっか。言い淀んだ時点でなにかあった、と認めてるようなものか。それに隠し事が下手なのも事実だ。なにせ、この母親は俺の好きな相手まで知っているのだから。 「父さんには言うなよ?」 「なによ。わかったわよ、言わない。母さんにだけは言いなさい」 「うん……。あのさ、花吐き病って知ってる?」 「花吐き病? どんな病気なの?」 「名前の通り、花を吐く病気」 「そんな病気があるの? で、どれくらいで治るの?」 「人によるらしいけど、俺はほぼ無理」 「なんでよ? 体質とか?」 「いや、片想い昇華させなきゃダメみたい」 「え? 片想い?」 「そう。片想いを拗らせたときに発症するんだって」

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