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 そう言うと、母さんは、目を丸くしていた。そうだよな。誰が片想い拗らせて花吐きました、しかも病気です、なんて思うよ。漫画かなにかかよ、って思うよな。うん、俺もそう思う。 「それじゃ、あんた不治の病じゃない」  俺の好きな相手を知っているがゆえに、ぐさりとくる言葉を言う。そうだよ! 不治の病だよ。悪いか! でも、親なんだから大丈夫とか、慰めの言葉はないのかよ。あ、大丈夫とも言えないか。そう思って落ち込む。 「涼介くん、モテるものね。よく女の子と一緒にいるところ見るわ」  涼介、こと香川涼介。俺の幼馴染みで、俺の片想いの相手。  涼介はとにかくモテる。よく陽に焼けた肌に、意志の強そうな太くて凛々しい眉がその印象を変えている。顔も男らしくて格好良ければ、頭もいいし、運動神経もいい。そして人を引っ張っていくことのできるリーダーシップのあるやつだ。こうやって思うと完璧なやつだな、と思う。そんなやつだから常に彼女がいて、彼女が途切れたことがない。それは母さんもよく知っていることだ。 「まぁ、叶わないってわかってるんだから、なんとかして昇華することを考えなさい。他の子好きになるとか、彼女作るとか。神様がグチグチ言ってるな、って言ってるのよ」  母さんは普段は優しいし、周りからもそう言われる。が、たまにすごい毒舌だったりする。そして今は、その毒舌モード。 「あんたも顔は悪くないはずよ。だって私に似てるもの。だから、あんたがその気になれば、彼女くらいできるわよ」  何気に自慢の言葉が入っているが、母さんはひとつわかっていない。 「俺、モテないよ」 「なんでよ?」 「小動物みたいなんだって。この間はリスみたいって言われた」  俺は丸顔に丸い目。そしてウェーブのかかったマッシュルームカットというのも相まって女の子みたい、と言われたことがある。確かに母さんがいうように母さん似だ。女子いわく、可愛いらしい。だから、女子にはモテるとは言えない。ペットにしたい、と言われたことさえある。 「リス……。確かに似てるわね」 「おいっ!」 「でも、可愛い系もモテるはずよ。頑張りなさい」  モテるはず、とか無責任だな。それだって、自分の顔に似てるから言うだけだろ。簡単に彼女ができるなら、さっさと作ってるよ。 「このこと、ほんとに父さんに言うなよな」 「言わないわよ。言ったら、あんたの片想い相手が気になっちゃうものね」  腹立つ! でも、花吐き病なんて奇病だと聞いても動揺せずにいてくれるのは感謝だ。いや、それも俺の片想い相手を知ってるからかもしれないけど。 「まぁ、でも特にどこか悪いわけじゃなくて良かったわ」  そうやって笑うのは、一応、心配はしてくれていた、ということだろうな。 「ありがと」 「なによ。気持ち悪い。ご飯できたら声かけるから宿題あるならやっておきなさいよ」 「うん」  二階にあがり、制服を着替えるとベッドに倒れ込む。想いを昇華させないと治らないとか最悪だ。どうやったら想いを昇華させるとかできるんだよ。できるなら、何年も片想いなんてしてない。  涼介を好きだと気づいたのは中学一年生のときだった。涼介に彼女ができた、と言われたときに胸がズキンと痛んで、涼介のことが好きなんだな、と気づいた。それから五年。その間、想いを昇華させることもなく継続してるんだから、そりゃ片想い拗らせてるよな。母さんの言うように、彼女でも作れば想いは昇華させることができるのだろうか。そんなに簡単なことなのかな。でも、とりあえずは花を吐かないようにするにはどうしたらいいのかを考えた。

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