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 翌日学校へ行くと、拓真に心配された。 「どっか悪かったのか? 昨日、来れないってメッセージあったから心配したんだぞ」 「あ、いや、そうじゃなくて……」  拓真にどう言ったら誤魔化せるか考えていると、教室の前のドアから一人の男がすごい勢いで入ってきて、こちらへと来る。 「陽翔! 昨日、病院行ったって本当か? どこか悪いのか? 大丈夫か?」  涼介だった。 「昨日母さんが、陽翔が深刻な顔して病院から出てくるの見たって。どこか悪いんじゃないかって昨日から心配で」  すごい勢いで捲し立てられてびっくりしてしまう。そして、涼介の言葉に乗っかったのは拓真だった。 「陽翔! 深刻な顔って……。そんなに悪かったのか? だから昨日来なかったんだな」  悲痛な面持ちの拓真と、その拓真の言葉を聞いてさらに心配顔になる涼介。 「陽翔、驚かないから言ってみろ。そんなに悪かったんだな」  いや、誰かこれ止めてくれないだろうか。拓真も涼介も真っ青だ。言えって言われても、さすがに花吐き病のことは言えない。こんな奇病にかかったなんて二人とも思わないだろう。嘘の下手な俺だけど、さすがにこのことは言えない。 「ちょっと。大丈夫だから! 俺、元気だから! だから、ほら、学校にだって来ただろ? ありがたいけど、二人とも心配しすぎだってば」 「ほんとに? 無理してないか? 心配させないようにって嘘ついてるんじゃないだろうな。陽翔、嘘下手なんだから嘘なんてつくなよ」  さすが涼介。幼馴染みだけあって俺のことをよくわかっている。確かに嘘下手だよ。自覚はある。でも、これだけはさすがに言えない。 「無理してないって。だから涼介も拓真も心配するな、って。ちょっと胃がさ、」 「胃潰瘍か?」 「胃がんか?」  いや、二人とも。俺の話を聞いてほしい。大丈夫、って言ったよ、俺。それ聞いたでしょ。 「いや、胃潰瘍でも胃がんでもないから。ただちょっと胃のムカつきが収まらなかっただけ」 「陽翔、ほんとか?」 「嘘ついてないだろうな?」  このまま丸め込まれそうな拓真と違い、涼介は未だ疑っている。俺、昨日そんなに深刻な顔してたのかな? ってか、おばさんも声かけてくれれば良かったのに。そしたら、今こんなに涼介に問いただされることにならなかったのに。 「嘘なんてついてないってば! 涼介、心配しすぎだよ」 「でも、陽翔が深刻な顔してるなんて、そんなにないだろ」  いや、俺、どれだけ能天気だと思われてるわけ? 俺だって深刻な顔のひとつやふたつ……しないか。でも、ここは涼介を納得させなくてはいけない。 「いや、だからさ、薬貰って落ち着いたから」  これは半分嘘で半分本当。朝食後、処方された数日分の薬を飲んだ。吐き気は昨夜から落ち着いていた。そう、落ち着いていた。なのに今、真剣な顔で俺を見ている涼介を見ていると、わずかに胃がムカつきだした。やばい!こんなとこで吐くわけにはいかない。 「だから涼介、心配しなくて大丈夫だから。昨日はさ、ちょっと腹減ってて……。そう、腹減ってたんだよ。ただそれだけ。ちょっと、俺トイレ!」 「陽翔!」  背中では、涼介の呼ぶ声が聞こえるけれど、そんなの無視だ。今ここで花なんて吐いたら大騒ぎになる。拓真も、ごめん。拓真にまで嘘つくのは申し訳ないけど、涼介も来ちゃったから言えなくなった。でも、そうでなくても、さすがに花吐き病とは言えない。胃もたれ、と言うのがせいぜいだ。  涼介はきっと、納得していない。さっきの嘘も下手くそだったと思うけど、涼介には拓真以上に言うわけにはいかない。まさか、お前のことが好きすぎて花吐き病になった、なんて言えるわけないだろ。  そんなことより、今はとにかく吐きたい。涼介の顔を見ていて吐きそうになる、とかちょっと大変だ。ほんとになんとかして、この想い昇華させなきゃだよな、と思ってひとつため息をついた。

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