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そう、そんなんじゃない。別にバイトと進学のことで頭がいっぱいなわけじゃない。でも、彼女がいないのは本当だし、好きな女子がいないのも本当だ。だって、俺が好きなのは男だから。涼介だから。でも、拓真はそのことを知らない。別に秘密にしようとか、そんなんじゃない。でも、相手が相手だ。誰彼ともなく言いふらせる相手じゃない。この手の話題になるたびに、申し訳ないな、という気持ちにならないわけではないけど。
「そういう拓真はどうなんだよ。大学、大丈夫なのか?」
「あー、耳痛ぇ。まぁ、大丈夫なところ志望してるからな。それでダメだったらバイトするわ。そういう陽翔は?」
「俺は勉強してるよ」
「なんだっけ? 獣医になるんだっけ?」
「そ。犬や猫、他にも動物のさ健康みてやりたいんだ。昔飼ってた猫が治らない病気で安楽死させちゃったから」
「優しいな。でも、陽翔に獣医ってあうよな。動物が似合う。だから、今は彼女封印してるのかー。でもさ、推薦狙ってるんだろ? それで大学決まって、彼女できたら教えろよな。で、彼女の友達紹介しろよ」
「気の長いやつだな。俺がモテないの知ってるじゃん」
「いや、可愛い系だってモテないわけじゃないぞ」
なんだか、昨日の母さんみたいなことを言ってるな、と思わず笑ってしまった。
「なに笑ってるんだよー。怪しい!」
「怪しくないよ。昨日、母さんが同じこと言ってたな、と思ってさ」
「陽翔ってお母さんと仲良いよな。一人っ子ってそんな感じなのかな?」
「さぁ? ってか、俺、母さんと仲良いかな?」
「仲良いだろ。だって俺、親となんて喋らないぜ」
仲良いのだろうか。確かに母さんとは話す方だ。というか、話しかけてくるし、以前無視したらご飯抜きなんてされたから、それから無視はしないようにしている。そして、一方的にではあるが、恋バナもしてくる。それも涼介のことを。涼介のことを好きなことは、俺が自分の気持ちに気づいた頃には知っていた。いや、母さんは、俺より先に俺の気持ちを知っていたのだ。そんなんだから、親と話したい話したくない抜きに、話さざるをえない。それが仲が良いことになるのかはわからないけど。
「それより、今日の宿題やっちゃおうぜ」
明日提出の数学の宿題が出ている。自慢じゃないが、俺は数学は苦手だ。家で一人でなんてできる気がしない。
「真面目ちゃんだなー。よし、宿題終わらせて、陽翔の恋バナ聞くぞ」
「真面目じゃないけど、提出しないわけにいかないだろ。で、話すような恋バナはナシ!」
「チェッ。ガード固いの」
拓真はこうやって俺の恋バナを聞きたがる。彼女はいない、好きな子もいない、そう言っているのが信じられないみたいだ。そりゃ、健全な男子高校生が高三にもなって彼女もいないし、好きな子もいない、というのは不自然なのかもしれない。いや、彼女がいなくても好きな子の一人や二人いてもおかしくないからだ。これが、涼介が女の子なら拓真にも話せるんだけどな、と思う。だけど、涼介は男だ。だから悪いな、とは思うけど話せない。
その日は、そんな話しをしながら宿題をした。でも、ひとつわかったこと。涼介のことを普通に話す分には吐き気は来ないということだ。そのことに少し安心した。
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