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コンコン合コン1

 花吐き病を患って三ヶ月。何度となく花を吐いたが、そのおかげでどうしたら吐き気が来るかがわかってきた。涼介のことで感情が動いたときに吐き気がしてる気がする。実際、ただ涼介の姿を見たり、話したりする分には吐くことはない。だけど、同じ姿を見たり、話したりすることでも、気持ちが動いたときに吐き気がきて、吐いてしまう。つまり、何も思うな、ということだ。でも、好きな相手のことを何も思うななんて無理な話しだ。それで結局花を吐いてしまう。  そして吐くときは黄色いチューリップとリナリア、パンジーが多い。最も、リナリアなんて花は知らなくて母さんに聞いて初めて知ったけど。そして、なんとなく花言葉を調べてみると、黄色いチューリップは望みのない恋。リナリアがこの恋に気づいて、パンジーは私を想ってくださいだった。どうも俺の気持ちが花に現れているらしい。つまり、吐いた花を見たらそのときの俺の気持ちがわかるっていうことだ。    夕方、バイトが終わって家に帰る途中。バイト先から道を右へ曲がったところで、涼介が前を歩いていることに気づいた。声をかけようと思ったら涼介一人ではないことに気づく。隣にはショートカットの女の子がいて、なんなら手を繋いで歩いている。  この方向だと、恐らく涼介の家に行くのだろう。なんでこんな現場見なきゃいけないんだよ。と、思ったところで吐き気がした。ヤバい。花がせり上がってくるのをなんとかこらえながら駆け足で涼介たちの横を通り過ぎる。背中から「陽翔」と呼ぶ涼介の声が聞こえてきたけど、それに振り向く余裕なんてない。急いで家に帰り花を吐いた。黄色いチューリップだった。  そりゃ、手を繋いで歩いているのを見たら、望みがないことくらいわかる。わかるけど、花でダメ押ししなくてもいいじゃないか、と誰にともわからず文句を言う。    「なんの花吐いたの?」  俺がトイレから出ると母さんが声をかけてくる。母さんは俺が数種類の花を吐いているのを知っている。リナリアの名前を訊いたときにバレた。それ以降、面白半分に吐いた後になんの花を吐いたか訊いてくる。悪趣味としか言えない。 「黄色いチューリップ」 「望みのない恋ね。なに? 何があったの?」 「……手繋いで歩いているの見た」 「あぁ、そりゃ望みないってわかるわね」 「面白がってないか?」 「あらー。心配してるのよ、これでも。だけど、望みがないのはねぇ……」  腹立つ! めっちゃ腹立つ! わざわざ言わなくても良くないか? ほんとに心配なんてしてるのか? 望みがないのなんてわかってるよ! わかってるから黄色いチューリップ吐いてるんだよ! それなのに、念押しのように言わなくてもいいだろ。あまりに腹が立って、これ以上母さんの顔を見ていたくなかったから、適当に自分の部屋を行く口実を言う。 「……宿題する」 「ご飯できたら声かけるから」  話しを切り上げるには自分の部屋に行くのが一番だ。今日は宿題はなかったけど、そんなの母さんにはわからない。宿題をする、と言えばそれ以上何も言わないからいい口実になっている。  制服から着替えて、すぐにゲームをする気になれずにゴロリとベッドに横になる。  花吐き病を治すには想いを昇華させること、っていうけど、実際、どうしたら昇華できるんだろうか。俺が女の子だったら告白して振られる、という手がある。でも、俺は男だからその手は使えない。やっぱり母さんの言う通り、誰か他に好きになるか、彼女を作るしかないんだろうか。  だけどな、と思う。他に好きな子ができるなんて浮気するみたいであり得ないし、できるのならとっくの昔にそうしてる。そうしたら彼女を作るしかないけど、残念ながら可愛い、ペットにしたい、と思われている俺ではできるのはちょっと難しい。ここは拓真をけしかけて、拓真に彼女を作って貰ってその友達を紹介して貰うか、なんて数ヶ月前に拓真が言ったのと同じことを思った。こんなこと思ってるようじゃ無理か。  そう思うとため息をつくしかない。花吐き病になる前はそんなに考え込むことも、ため息をつくこともなかったが、今では考え事をするのも増えたし、ため息をつくことも増えた。とても健康的とは言えない。神経病みそうだ。  その数日後の昼休み。  拓真と屋上で昼を食べ終えて教室へ戻ろうと人気のない廊下を通ろうとしたとき、階段の下に涼介が見えた。

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