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なんで発症してんの?1

 二学期が始まり、九月とは言えまだまだ残暑の厳しいある日、俺は久々に熱を出した。 「まぁ、インフルエンザじゃないから、数日休んでれば大丈夫でしょう。お薬も貰ったし」  母さんはそう言うけど、さすがにしんどい。昨夜は三十九度まであがり、さすがの俺も起きる力も食べる元気もなく、学校を休んだ。  熱を出したのも久しぶりなら、学校を休んだのも久しぶりだ。昼間だというのに熱は三十七度七分。食欲はないから、薬を飲むためにお粥を少し口に入れただけだ。 「お薬飲むためにも、体力落とさないためにも少しでいいから食べておきなさい」    俺としては水分補給にポカリスエットだけでいいいし、なんならゼリーでもいい。栄養のために食べなさい! と卵粥を食べさせられた。これこそゼリーでいいと思うんだけど、反抗する元気もないからそのまま食べた。  昼にお粥を食べて薬を飲んだら、眠くてウトウトしてくる。具合悪いときってなんでこんなに眠いんだろ、って思いながら夢の中に入る。  夢の中では、大人になった涼介が小さくて可愛い女性とチャペルで挙式している。俺は参列者として式に参加し、人のものになる涼介を見て泣いていた。  夢の中の涼介は泣いている俺とは正反対に幸せそうな笑みを浮かべ、愛おしそうに隣に立つ女性を見ている。その表情で涼介がどれだけその女性を愛しているかがわかる、そんな表情をしていた。涼介の隣に立つ女性も幸せそうに微笑んで上目遣いに涼介を見ている。そんな二人を参列者として見ている俺は悲しさしかない。なのに、俺の隣に立つ友人は、幸せそうで羨ましいよな、と笑いながら言っている。誰も俺が泣いているなんて気づかない。なんで。なんで誰も気づいてくれないんだよ。行くなよ。涼介、行くなよ。  ――涼介!  夢の中で涼介の名前を叫んだ俺は、実際に涼介の名前を叫んでいたらしい。自分の叫び声で目を覚ます。涙が出ているのも気づく。そして、そこでベッド脇に現実の涼介がいることに気がつき、ヒュッと喉が鳴る。聞かれた! そう思うとなんて言っていいのかわからずに黙りこくる。涼介は心配そうな顔をして俺を覗き込む。 「俺の名前呼んでたけど、どうした? それより体大丈夫か? おばさんが熱高いって言ってたけど。まだ熱高いのか?」 「三十七度七分」 「高いな。で、陽翔の夢の中で俺はどうだったわけ?」  当たり前だけど質問される。まさか、涼介の結婚式に参列してた、なんて言えないよな。誰が幼馴染みの結婚式に参列して、泣きながら名前呼ぶんだよ。そんなのありえない。でも、俺の見た夢はそんな普通ならありえないことで。 「えっと……。なんか襲われてたから……」  適当に思いついたことを言うと涼介は信じたようだった。 「なんだよ、それ。お前、俺のこと殺す気かよ」  まぁ、気にはいらなかったようだけど、本当のことがバレるよりずっといい。 「そんなことあるわけないだろ」 「ま、いいけどさ。あ、忘れるところだった。これ、プリント。桐生から預かってきた」 「拓真から?」 「そう。桐生が来るって言ってたけど、俺なら近所だしさ。あ、保護者あてのプリントはおばさんに渡してあるから」 「ありがとう」  拓真が来ようとしてたのはわかる。もし逆の立場ならプリント持って行こうとするから。でも、拓真、なんで拓真が来ないんだよ。なんで涼介に任せるんだよ。多分、拓真のことだから、涼介が来た方が俺が喜ぶとか思ったんだろう。そりゃ嬉しいけど、さっきやばかったじゃないか。 「陽翔って桐生と仲良いよな」  は? 何を言うんだ? そりゃ友達なんだから仲良いだろうよ。 「何言ってんだよ。友達なんだから当然だろ。涼介だって友達いるじゃん」 「いるよ。いるけどさ、俺は陽翔が一番だよ」  俺が一番。そんなことない。だって彼女がいる。そう考えると胸がむかむかしてきた。 「彼女の次だけどな」  そう。どうやったって彼女には勝てないんだ。なんでそんなことを体調悪いときに思い知らせるかな? 余計にしんどいじゃんか。  でも、涼介から返ってきた返事は違った。 「冗談。彼女なんかより陽翔の方が大事だよ」

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