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 俺? 彼女よりも大事だって言ってくれるの? ほんとに一番だって言ってくれるのか? そう思ったら嬉しくて感情が動いた。と、同時に激しい吐き気がする。  ヤバい! 口を抑えてベッドから起き上がろうとする。 「おい、大丈夫か?」  涼介がゴミ箱を俺のところに持ってくる。ここに吐けということだろう。が、吐けるか! 「陽翔」  そう心配そうに背中を撫でてくる涼介に、俺はトイレまで我慢できずに、床に花を吐いてしまった。  吐いたのは赤い薔薇だった。綺麗だな。なんて見とれてる場合じゃない。隠さなきゃ!  慌てて薔薇を拾おうとすると涼介も拾おうとする。拾わせるわけにはいかない。もっとも彼女いるから発症なんてしないけど。それでも、それとこれとは別だ。 「触るな!」  が、少し遅かった。俺が声をかけたときには涼介は薔薇を拾ってしまっていた。 「綺麗だな」  そう言った涼介だが、次の瞬間には涼介も赤い薔薇の花を吐いていた。  花を吐くところを見られたパニックと、涼介も花を吐いたということでさらにパニックになる。  え、なんで? なんで涼介が花を吐くんだ? だって、花吐き病は片想いを拗らせたときに発症するんだろう? それなら涼介が発症するはずはないじゃないか。あまりのことに頭が回らない。 「なんで陽翔も俺も花なんて吐いてんだ?」  呆けたように涼介が言う。 「なんか悪い病気なのか?」  そうだよな。そう思うよな。実際、奇病で難病指定なんだから悪い病気には違いない。死にはしないけど。 「もしかして、陽翔が前に病院行ってたのってこれか?」  こくん、と頷く。もう隠せない。 「何、この病気。なんで俺も花吐いてんだ」 「花吐き病。片想いを拗らせたときに発症する病気、のはず。でもなんで涼介が吐いたのかはわからない」 「片想いを拗らせたとき?」 「そう。でも涼介違うもんな。彼女いるんだし」 「いや、あってるよ」 「あってる?」  何があってるというんだ?彼女いるのに片想いのはずないじゃないか。意味がわからない。 「俺、片想いだから。もう何年も」  は? 片想い? 涼介が? どこの涼介が? 「彼女いるじゃんか」 「いるけど、ずっと好きなやつがいる」  え? 好きなやつがいるって、じゃあ彼女は? そんな疑問が聞こえたかのように涼介は続ける。 「中学のときから好きなやつがいて。でも、絶対に叶わないから。で、告られたら付き合うようにしてる。酷いやつかもしれないけど、好きになれたら忘れられると思って」  でも、涼介は花を吐いた。 「でも、そう簡単にいかないよな。どんなに可愛い女の子と付き合ったって気持ちは変わらなくてさ。だから拗らせてる、って正解」  彼女以外に好きな子がいるのか。しかも何年も……。 「なんで?」 「え? 何が?」 「なんでその子に告白しないの?」 「なんでって、言ったろ。絶対に叶わないって」 「わかんないじゃんか。涼介だよ? イケメンで優しくて。そんな涼介が告ってフラれるなんてあるわけないだろ」 「ならいいけどな」 「告っちゃえよ。俺、応援するから」  嘘。応援なんてできる自信がない。でも、涼介が片想いでいるのなんて可哀想で見ていられない。片想いが昇華されない限りこの病気は治らない。そんな病気、涼介に患って欲しくない。  そう強く思ったところで、強く吐き気がくることもなく、ポロリとリナリアが口からでた。この恋に気づいて……か。気づかれたらダメなのに。彼女がいて、しかも何年も好きな人がいて。そんな人、もう失恋確定じゃないか。なのに。なのにどうして白銀の百合を吐かないんだよ。失恋じゃないか。なのに、なんで。そう思うと涙が出てくる。 「おい、陽翔。なんでそんなに泣くんだよ。泣くな。な?」  そう言って俺の背中を撫でてくれる。  花を吐いた俺を見ても気持ち悪がらず、こうやって心配してくれる。優しい。涼介はそういうやつだ。子供の頃からずっとそうだった。だから涼介を好きだと思う。どんなに叶わなくても。

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