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 不機嫌になった涼介は見たくない。正直、あのときの涼介は怖かった。あれ以上怒られたりしたら怖い。大体、涼介に怒られたことなんてほとんどないんだ。ん? あったっけ? すぐに思い出せない。そんなんだから、怒られたくない、って思う。 「行ったら怒られるだろうな」 「まぁ、怒るだろうな」  合コンには行きたい。でも、涼介には怒られたくない。 「バレない方法ってないかなー?」 「この間はなんでバレた?」 「うちの母さん」 「じゃあ、おばさんに口止めするしかないな」 「すっごい不安しか残らない」 「家族ぐるみの付き合いだと難しいだろうな。まぁ、おばさんが言わなくても学校でバレるかもよ」 「そっかー。つまり、隠し通すのは無理ってことか」 「そうだな」    母さんに口止めしようとしたって、なんで涼介くんに黙ってないといけないの、ってなるしな、絶対。母さんから直接涼介に伝わらなくたって、涼介のおばさんや妹の里奈ちゃんの耳に入るかもしれない。意外と里奈ちゃんはダークホースだ。学校同じだし。そしたら涼介に怒られるの覚悟で行くしかないのかな? 「大変な幼馴染みもったな、陽翔も」 「かもしれない……」 「ま、今すぐ行くわけでもないから、それまでに香川が忘れてくれてるといいな」  それ、希望は限りなくゼロに近いけどな。なにせ涼介の記憶力は半端ないから。ここはやっぱり合コンに行かずに彼女を作るためにも拓真に彼女を作って貰うのが一番いい気がする。それを言うも、無理だろ、と返事が帰ってくる。 「何が無理なんだよ」 「すぐに俺に彼女ができるはずないし、仮にできて陽翔に友達を紹介するにしても、それが香川の耳に入ったら間違いなく怒るぞ」 「怒るかな? 合コンは行かないよ?」 「合コン関係ないだろ。なにせ陽翔に彼女はいらないって言うし、極めつけは、陽翔は俺のもの発言だからな」  そうか、あの発言があると無理なのか。 「大学決まってもダメかな」 「大学決まっても、せいぜい勉学の邪魔、が消えるくらいじゃね?」 「そんなこと言ったら、俺、永遠に彼女できないじゃんか」 「だから、怒られるの覚悟するか、香川の気持ちが変わるの待つかだな」  そんなのありかよ。大体、涼介がどういう意図で俺のもの発言したのかわからないのに。 「でも、俺のもの発言は嬉しかったんじゃん? あの後、吐き気してただろ。花吐いた?」 「赤いアネモネ吐いた」 「赤いアネモネ……」  そう言いながら拓真はスマホをいじっている。 「君を愛す、だってさ」  拓真に言われて、恥ずかしくなる。自分の気持ちが花に現れるなんて恥ずかしすぎる。 「ほんとに香川のこと好きなんだな」 「なんだよ! いいだろ、別に」 「ま、俺はいいけどね。でもさ、陽翔にもああだろ。そしたらさ、好きな子と付き合ったらすごい独占しそうだよな」  涼介が俺に対して以上に独占する子。そんな子を目の当たりにしたら俺、どうなっちゃうんだろう。今、付き合ってる子と一緒にいるのを見るだけで花吐くのに、涼介が誰よりも大事な子と付き合ったら、俺、神経もつかな? 「ほら、余計なこと考えるな。また花吐くぞ。こんどはめっちゃ悲しい花言葉の」  そう言われて思考を戻す。これ以上考えちゃダメだ。 「まぁさ、お前もすぐは気持ち切り替えられないみたいだから、少し気持ちに踏ん切りつけようぜ。その頃には、香川に何言われても気にしないかもしれないだろ? お前の気持ちが違うんだからさ。それに香川自身には彼女いるんだから、お前だけ作っちゃいけないってことはないよ」  そっか。そうだよな。まずは俺の気持ち。絶対に涼介を忘れて彼女を作るんだ、っていう気持ちにならないと合コン行ったって、この間と同じことの繰り返しだもんな。それに、拓真の言う通り、涼介は好きな子忘れたくて彼女作ってるなら、俺が同じことしたっていいはず。もし、涼介に何か言われたらそう言えばいいんだ。いや、この間言ったけど、それを貫けばいいんだ。 「ありがと。拓真もたまにはいいこと言うな」  そう冗談めかして言うと拓真は怒る。 「たまにはじゃないだろ。いつもだろ」 「はいはい。いつもいつも」 「お前なーー」  涼介がなんでああ言うのかはわからない。でも、拓真の言う通りだ。そう思うと仮に涼介に怒られても言い返せる気がした。  

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