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「合コンは桐生、一人で行ってくれ」 「なんで反対するわけ? 香川だって彼女いるんだし、陽翔にいたっていいんじゃん?」 「受験生だろ、俺ら」 「そうだけどさ。その受験生でも香川はいるわけだし」 「陽翔は今年勉強頑張ってるから」 「ま、確かにな。今年になってから真面目ちゃんだわ」 「だから、今は邪魔になる」 「邪魔にって、そこまでいうか?」 「女なんて甘ったるい声だして、こっちの時間を食いつぶそうとするだけだよ」 「それ、彼女の前で言ったらヤバいんじゃね?」  涼介と拓真が交わす会話に俺はなんの言葉もはさめなかった。ただ、なんか涼介が親みたいだなーと思って聞いてた。いや、本物の親である母さんは彼女作るの反対してないけどな。  でも、拓真じゃないけど、今の言葉は確かに彼女に聞かれたらそれこそ平手打ちくらいそうだ。 「あぁ、前に言ったらビンタされた」  その言葉に、前に人気の少ない廊下で涼介が平手打ちをくらっているのを目撃したことを思い出す。 「でも、ほんとだよ。自分を優先しろってうるさいんだ。こっちは受験生だし、他にも大事なものあるのに。おかげで陽翔と会う時間も削られてる」  それは事実だ。珍しく涼介に彼女がいないときは涼介は自分の家に帰る前にうちに帰ってくる。でも、彼女ができるとうちには来れなくて、そのまま自分の家に帰ることになる。 「お前たちってなに? 夫婦? それとも恋人?」 「そんなんじゃないよ。子供の頃からそうなの」  そう言うと拓真が目を丸くする。 「陽翔は俺のものだ」 「!!」  涼介の言葉に驚いて言葉が出なかった。  ――俺のものだ  それは、言って貰いたい言葉だった。 「香川ー。それヤバいぞ。18にもなってさー」 「歳なんて関係ない。昔っから陽翔は俺のだ」  喜んじゃいけない。そういう意味じゃない。わかってる。わかってるけど、涼介の言葉が嬉しい。 「もう、完全恋人じゃん。で、なんで香川、彼女いるわけ?」 「恋人とかそんなんじゃないよ。陽翔は彼女なんかよりずっと大切なだけ」  さっきから耳が幸せすぎてどうしたらいいのかわからない。でもヤバい。ちょっとヤバい。嬉しいけど、花吐きそうだ。思わず口を押さえると涼介の心配そうな声が聞こえる。 「吐きそうか? 我慢するな。吐いていいんだぞ」  そう言ってゴミ箱を出す涼介。いや、ちょっと待って。いくら俺の花吐き病を知っている二人とは言え吐いているところなんて見せられない。 「トイレ行ってくる」  急いでトイレに行って、吐いたのは赤いアネモネだった。吐いた花を片付け部屋へと戻る。赤いアネモネってなんて花言葉なんだろう。後で調べてみよう。  部屋に戻ると、涼介が帰るという。 「もっといたいけど宿題あるからさ。陽翔が随分良さそうでホッとした。でも、無理するなよ」 「うん。ありがとう」  涼介を見送った後、拓真が喚き声をあげる。 「何? どうしたの急に」 「どうしたもこうしたもないよ。お前たちラブラブじゃん」 「は?」 「だってさー、おかえりなさい、ただいま、に始まってさ陽翔は俺のものだ発言だよ。それラブラブって言わなきゃなんて言うんだよ」 「おかえり、ただいまは普通だよ。親も普通に言ってるし、子供の頃からそう言ってきてるから」 「それでも、陽翔は俺のものだ発言があるだろ」 「あれは……俺もびっくりした」  そう。俺のもの発言は俺もびっくりした。びっくりして、でも嬉しくて、それで花吐いちゃったんだ。あの発言の意味はわからない。 「意外とさ両想いかもしれないな」 「は?」 「んー。なんか香川と話しててそう思った」 「そんなはずないだろ。涼介には何年も好きな子がいるんだから」 「それ、陽翔かもしれないじゃん」 「そんなことないよ。俺のもの発言だってさ、きっと子供の独占欲と一緒じゃない? 小さい頃から一緒にいるから」 「そうかなー」 「そうだよ」 「でさ、合コンどうする? 香川反対してたけど」  あぁ、それ。涼介に反対されてたのすっかり忘れてたよな。あのとき、合コンから帰ってきたら涼介、すごい不機嫌だったな。もし、涼介の反対押し切ってまた合コン行ったらもっと怒られるんだろうな。  

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