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 なんてことを話した日の夕方。涼介がうちに来た。サッカー部だった涼介はもう部活は引退しているから、多分彼女とのデート帰りなんだろうな、と思うと胸がツキンとする。もういい加減慣れてもいいのに全然慣れない。  涼介の近くに寄ったときに、甘ったるいコロンの香りがして吐き気がしてきた。 「ごめん、トイレ」  そう言って吐いた花は、マリーゴールドだった。花言葉はなんだ? いや、もう調べる気がしない。どうせ気持ちと連動してるんだ。嫉妬とかそんなのだろう。少なくともいい感情じゃない。 「大丈夫か?」     部屋に戻ると心配顔の涼介がいた。また花を吐いたのかと心配したのだろう。実際そうだけど。そう言えば、涼介が花吐いてるの見たことないな。こっそり吐いてるのかな? それとももう想いは成就したんだろうか。 「涼介ってさ、もう想い実った?」 「なんだよ急に」 「ん? 花、吐いてるのかなって」 「まだ吐いてるよ。実ることなんてないんだからさ」  涼介をもってしても叶わない相手って誰なんだろう。 「相手って、まさか結婚とかしてる人なの?」 「は?」 「だって叶わないっていうからさ」 「発想が突飛だな。残念ながら同級生だよ」  同級生? それで涼介で叶わない相手って彼氏がいる子か? でもわかんないじゃんか。別れちゃうかもしれないし。いやいや。人の不幸を願うわけじゃないけど、涼介が叶わない恋をしてるっていうのが可哀想で。  俺なんて、涼介が欲しくて欲しくて仕方ないのにな。世の中うまくいかないな。 「ところで陽翔。文化祭はどうするんだ? 陽翔のところは迷路だろ?」 「自由時間多いから、拓真と回るけど、ずっとはな。涼介は、その……彼女と回るのか?」 「あぁ。時間取ってくれって煩いから少し一緒に回る」  だよなー。俺が彼女でも一緒に回ってくれって言うわ。そしたらやっぱり一緒に回るなんて無理かな? 「あの……。彼女と回るのに無理かもしれないけど、一緒に回らないか?」 「いいのか?!」  食い気味にくる涼介にちょっと驚いてしまう。いいのか、ってこっちのセリフなんだけど。 「一緒に回ろう!」 「でも、彼女大丈夫?」 「少し一緒に回れば満足だろう」 「そんなこと言ったら怒られるよ?」 「だから長続きしないんだよな」  そう言えば涼介って彼女が途切れたことないから忘れてたけど、あまり長続きしてない気がする。 「やっぱり好きになれないからかな。同じ熱量を求められても無理でさ」  あぁ、そっか。好きでもないのに付き合うとそういうことになるのか。なかなか大変だな。明日は我が身かもしれないから、しっかり覚えておこう。 「そんなことより、一緒に回ろうぜ。大学、別だから一緒に回れるの嬉しいな」 「あ、あのさ。好きな子誘わなくても大丈夫? あ、もう誘ってるか。ごめん」 「誘って貰った」  そう蕩けそうな顔をして笑う涼介を見て、胸が痛くなる。そっか、誘って貰ったのか。嬉しそうだな。そうだよな。俺だって天に昇るほど嬉しいんだから、涼介だって嬉しくて当然だ。 「涼介、文化祭大忙しだな。自由時間短いだろうにさ、友達も来るだろうし、彼女と回って、俺と回って好きな子と回って」 「陽翔と回るのがメインだよ」  って言うけど、好きな子と回るのがメインに決まってるじゃないか。っていうか。っていうかさ。誘って貰ったんなら脈アリなんじゃないのか? そう言うと涼介は嬉しそうに笑う。 「ならいいんだけどな。ま、そんなことはいいよ。当日さ、俺の休憩時間わかったら知らせるから、そうしたらうちのクラス来て貰っていいか? なんか飲んでてもいいしさ」 「あ、うん。じゃあそうする。楽しみだな、文化祭」  涼介が好きな子と回ると考えるとちょっと悲しいけど、どうせ元々叶わないんだし考えるのやめよう。あー、でも当日見かけたら、涼介が誰を好きなのかわかっちゃうな。涼介に好きな子がいるのはわかってるし、叶わないのもわかってる。でも、相手が誰なのか知るのは少しショックかもしれない。あ、逆に諦めがついていいのかな。でも! とりあえず一緒に回れるんだ。それを楽しみにしよう。

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