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「は? いや、断る!」
「えー。西園寺くんなら絶対優勝間違いなしだから」
「いや、そういう問題じゃなくて、俺、男だから」
「男だから頼んでるんじゃない」
「なんで男なのに女装なんてして人前に出なきゃいけないんだよ」
「いいじゃん、陽翔。高校生活最後の思い出だぞ」
今、俺は危機を迎えている。何って、被服部のクラスメートが女装コンテストに出ろなんて言ってきたからだ。
なんで被服部が女装コンテストなんだ、って話だけど、要はその衣装を制作するらしい。でも、そのままの展示だとつまらないから女装コンテストにしよう、というらしい。
いや、好きにしてくれていいよ。人の部活のことだから。でも。でも! 俺に女装コンテストに出ろって言うのだけはやめて欲しい。確かに母さん似で女顔かもしれないけど、俺だって男なんだ。だれが女装なんてしたいって思うよ。
「拓真。そういうならお前も出ろよ!」
「残念。俺が女装したって誰も見たくねーよ」
「うーん。桐生くんだとお笑いになっちゃうかなぁ。そういう主盲ならいいんだけど、今度のは真面目なんだよね」
ちょっと待て。女装コンテストにお笑いも真面目もあるのか? 男が女装するって時点でお笑いじゃないのか?
「その点、西園寺くんなら間違いなく可愛いでしょう。アイドルタイプになれるよ。可愛い男の娘間違いなし!」
「男の娘になんてなりたくない! 俺は今のままで十分満足してるから」
「でも、ごめんね。実はもうエントリーしちゃってるんだ」
ごめんね? と笑顔で言われるけど、いや、待てよ。なんで本人の了承もなく勝手にエントリーしてるんだよ。そして、隣で笑ってる拓真! 笑ってないで助けろよ!
「と言っても大したことないから安心して。当日、うちらが作った服を着てステージに立って、ちょっと歩いて貰うだけだから。後は、投票とっておしまい。あ、でも、優勝・準優勝したらまたステージに立って貰うけど」
全然大したことあるじゃないか! 人前に出て歩けだ? モデルじゃないんだよ! まぁ、優勝も準優勝もしないから、一度出たらすぐに脱いでやる。と思ったけど、俺の考えは読まれていた。
「すぐ脱ごうと思ったでしょう? でも、西園寺くんなら優勝すると思うし、ダメでも準優勝はイケるからしばらく着てた方がいいと思う」
「冗談じゃない。ステージに出るのだって嫌なのに、なんでその格好でしばらくいなきゃいけないんだよ! 俺は文化祭回るの! 高校生活最後の文化祭楽しむの!」
「高校生活最後の文化祭だからこそ、思い出作ろうよ」
「女装なんてしたら黒歴史になる」
「もう、可愛い顔して頑固なんだからー」
何が可愛い顔してだ。俺はこの顔が嫌なんだ。男らしい顔が良かったんだ!
「桐生くんからもなんとか言ってあげてよ」
「陽翔、ほんの少しの時間じゃん? なんなら、その格好のまま文化祭回ろうぜ。彼女連れてる気分になれる」
「ふざけるな! 拓真、お前、友達売る気かよ」
「そんなー。大袈裟だなー」
拓真は他人事だからヘラヘラと笑っている。あー、腹立つ!
「あ、それでね。明日、寸法測るから。あ、その前に、ワンピースと浴衣とドレスどれがいい? 西園寺くんならアイドル風のフリフリドレスとか良さそう」
「そうだな。陽翔なら綺麗系より可愛い系だな」
ちょっと待て! なんで本人差し置いて外野が勝手に決めていくんだよ。
「浴衣もはんなり和風美女っぽくていいけど、西園寺くん可愛い系だもんね。ピンクと白のフリフリドレスとか似合いそう」
「お、それいいんじゃね?」
「だよね。よし、じゃあフリフリドレスに決定!」
いや、俺一言も言ってない。フリフリドレスがいいなんて一言も言ってない。でも、悲しいかな、俺の意見は一切聞き入れて貰えなかった。
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