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 帰宅して母さんに愚痴ると盛大に笑っている。おい! 自分の息子が男の娘にされるんだぞ。笑いごとじゃないだろ。 「確かにあんた男の娘にぴったりだわ」 「は?」 「写真撮って貰いなさい」  おい! それが母親の言うことかよ。  と、プリプリと怒っていると、そこに涼介が来る。やばい! 涼介に知られる! こんな恥ずかしいこと知られたくない。  しかし、時既に遅し。母さんが涼介にペラペラと話す。 「へー、女装するんだ。陽翔なら可愛いだろうな」  何が悲しくて涼介にまでそんなこと言われなきゃいけないんだ? 「俺、クラスのカフェあるから見れるかわからないからさ、うちのクラスまで来てよ」  はい? 涼介さん、何を仰る? 「俺も陽翔のドレス姿みたいから」  こんなこと知ったら涼介は気持ち悪がると思ってた。間違えても楽しむタイプじゃないと思ってた。 「陽翔だからだよ」  いや、涼介。そんな甘い顔で言われても、言われてる内容が全然嬉しくない。 「時間があえばさ、俺にエスコートさせて」  エスコートさせて、って。誰かにそれをして貰わなきゃいけないのなら、それは拓真よりは涼介の方がいい。でも、そもそもエスコートされるようなのが嫌だ。 「そうね、それがいいわ」 「そんなことしたら涼介、彼女に怒られるぞ」 「なんで。相手陽翔だぞ。関係ないよ」  どう関係ないのかわからない。どうせ女装だとわかるからエスコートさせたって問題ないってことか。そう思うと胸がチクチクする。  あぁ!あまり考えるな、俺。あまり考えると花を吐く。 「私も見に行くから頑張んなさい」 「来るなよ! 息子のそんな姿見たくないだろ」 「なんでー。息子の晴れ姿じゃない。行くに決まってるでしょう。高校生活最後だしね。涼介くんのところにも行くからね」 「待ってます」  学校に引き続き、ここでも俺を差し置いて話が進んでいく。誰か俺の味方はいないのか? そう思うと絶望的な気持ちになる。  大体、母さんに似たのがいけないんだ。女顔なんかに生まれなければこんなことにならなかったんだ。と、母さんを睨むがどこ吹く風で知らんぷりしている。まぁ、母さんに愚痴ったのが間違いだ。この親だ。面白がるに決まってる。  問題は涼介だ。涼介には知られたくなかったけど、ステージになんか立ったらバレるのは時間の問題ってことか。  こうなるとやっぱり、俺を売った拓真を恨むしかない。こうなったら、明日学校に行ったら再度断るか。それしかない。でも、涼介が見たがってるんだよな。悲しいかな、嫌なことでも涼介が絡むと涼介の望むままに、って思っちゃうんだよな。惚れた弱みっていうやつだ。 「気持ち悪いと思わないの? 女装とかさ」 「気持ち悪いというか笑えるよな。でも、陽翔だとイケるんだよな。やっぱり可愛いからかな?」  可愛い……。はっきり言って嬉しい言葉じゃない。散々言われている言葉で、言われるのは嫌いな言葉だけど、なんだろう。なんだか嬉しい。それはやっぱり涼介だからなんだろうな。 「さっきも言ったけどさ、時間によっては見に行けるかわからないから、見せに来て? 大丈夫。メイクもしてくれるだろうから、誰も陽翔だなんてわからないよ。仮にわかったとしても可愛いから問題ないよ」 「そのドレスのまま涼介のとこに行くのは嫌だ」 「でも、そうしないと見れないかもだし」 「……わかった。でも! それは涼介が抜けられないとき限定だからな!」 「わかった。あー早く見たいな。可愛いだろうな。あ、でも早く脱いで貰わなきゃな」  さすが涼介! 俺の気持ちわかってる。と思ったのは甘かった。 「誰かが陽翔を好きになったら困るからな」  と、わけのわからないことを言い出した。やっぱり俺の味方はいないらしい。結局俺は女装コンテストに出ることになった。

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