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 翌日、採寸とともにドレスのラフ画を見せて貰う。 「ほっそ! 細いと思ってたけど、ほんとに細いね。女の子みたい。ドレス映えしそう」  そう言って採寸された。可愛い、もだけど細いのもコンプレックスだ。男らしくなりたくて筋トレしたりしてるけど、イマイチ成果がでない。どうも筋肉のつきにくい体質みたいだ。だから細いと言われるのは嫌いだ。   「確かに陽翔は華奢だよな」  採寸を横で見ていた拓真が呟く。  拓真は俺が細いことをコンプレックスに思ってることを知ってる。知ってるのに! 後でポテトとドリンク奢って貰おう。 「あ、足はどう?」  そう言ってズボンを捲くられる。  おい! セクハラだぞ! 「うわ、細い! まっすぐ! ムダ毛ない! これは男の娘になるべくして生まれたのよ。でも、これならミニのフリフリドレス着ても大丈夫ね」  は? 冗談じゃない。俺は男だ! とは言え、この二人に何を言っても聞き入れて貰えないので黙っている。  そうして採寸が終わると、ドレスのラフ画を見せて貰う。そこには、ピンクと白の何段にもフリルのついたミニドレスが描かれていた。昭和か! こんなのを着せられるのかと思うと泣けてくる。  全てが終ったファーストフードでは、拓真にポテトを奢らせ、俺はぐったりとした。あの数十分で、バイト一日以上の疲れだ。 「もう文化祭嫌だ」 「何言ってんだよ。お祭りだぞ。楽しまなくてどうする。香川とも回るんだろ」 「回る。回るけど、ドレス姿見せろとも言われてる」 「香川に言われてるなら着なきゃじゃん」 「みんなおかしいよ。俺、男だよ? なんでヤローのドレス姿見たいとか思うわけ?」 「そりゃ陽翔が可愛いからだろうな。おばさんはなんて?」 「笑ってた。写真撮って貰えって。俺をおもちゃにして楽しんでる」 「似合わなかったらそんな反応にならないって。こうなったら楽しんだもん勝ちだぞ?」 「他人事だと思って」 「ま、他人事だけどな。でも、ほんとに似合うと思ってるよ」  さらりと、他人事と言ってのけた拓真に言葉が出ない。あっさりはっきり言われたら人間って文句もでないのな。潔すぎて。 「真面目な話さ。ほんの数分だろ? 香川に見せに行ったって十分ちょっとくらい? すぐじゃん。余興だよ、余興」  確かに時間としては短い時間だ。それは間違いない。涼介が見に来てくれればもっと短いにしても、ずっとドレスを着てなきゃいけないわけじゃない。 「余興かぁ」 「そ。だから真面目になってるよりもノリで楽しんじゃえば良くない?」 「そうかもしれないけど、でもやっぱり着たくない」  確かにみんなノリを求めているんだろう。楽しむためのもの、っていうのもわかってる。わかってるけどな。せめてシンプルなものにして欲しかった。でなかったら浴衣とか。ドレスというのがいけない。しかも、ザ・昭和なフリフリドレス。せめて親と涼介には見られたくなかったのに、二人とも見ると言う。涼介に至っては、見に行けない場合は見せに来い、とまで言う。ほんとに俺の味方はどこにもいない。  ハーッと今日何度目かのため息をつき、俺はテーブルに沈んだ。

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