27 / 55

ぶんぶん文化祭1

 嫌だ嫌だとどれだけ喚いても、文化祭自体は楽しみだし、何より涼介とまわるのは楽しみすぎる。嫌なのはドレスを着ることだけで他は楽しみなのだ。なにせ高校生活最後の文化祭だ。楽しまなきゃ損だ。  そう考えるとドレスを着ることも拓真の言う通り、余興のノリで楽しんじゃえばいいのか。そう思うと、少し、ほんの少ーし気持ちが和らぐ。だって文化祭は楽しみたいじゃないか。    前日のドレスを着てのステージのリハーサルも根性で終わらせた文化祭当日。  女装コンテストのステージの時間に合わせて涼介が休憩を取ってくれたので、ドレスを着たまま校舎の中を歩くということがなくなったことから、ノリでいってやる気になった。ドレスを着てる時間は短い方がいい。  そして涼介は、俺がドレスに着替えてからステージへ上がるまでをエスコートしてくれるという。エスコートなんていらない、と最初は言ったのだけど、ハイヒールで歩けるのか? の言葉で、エスコートをお願いすることにした。これ、ドレスを着る時間が短くなったけど、別の恥ずかしさが加わった気がするのは気のせいだろうか。いや、涼介にエスコートされたい女の子なんてたくさんいるだろうけど。いや、俺だって嬉しいけど、単に恥ずかしいだけだ。でも、それだって楽しもう、という気になっている。気持ちの持ちようって怖いよな。  午前中はクラスの迷路のスタッフなので、教室につく。学校の制服を着た生徒、生徒の友人と見える同世代の私服組。そして、保護者である大人。普段見かけない人たちまで校舎内にいっぱいいて、あぁ、祭りなんだな、と思う。  と、スタッフがぼーっとしていると怒られるので、迷路に来た人を誘導していく。とはいえ、カフェとかに比べたら人も少ない方。特に顔寄せになるようなのもいないし。まぁ、いたところで迷路じゃそんなに大盛況! ということにはならない。  そうやってスタッフをした後は、昼食を兼ねて拓真と文化祭を見てまわる。 「腹減ったー」 「まずはガッツリ行こうぜ、ガッツリ」 「としたら焼きそばとたこ焼きか」 「だな。行こうぜ」  まずは焼きそば、たこ焼きの教室を目指す。焼きそばは料理部がやっていて、たこ焼きは二年生のクラスがやっているみたいだ。ソースの匂いが食欲をそそる。まずは家庭科室に入り焼きそばを食べる。昼よりほんの少し早いから、さほど混んでいることもなく、ゆっくりテーブルに座れた。  いつもの見慣れた家庭科室じゃなくて、なんだか不思議な気がする。校舎も祭り仕様なのだ。うん、祭りって楽しい! 「女装コンテストって午後だっけ?」 「そう。二時半から」 「見に行くからな」 「俺に投票しろよ。俺を売った責任だ」 「えー。他に可愛い子いたらわからないな」 「おい!」 「嘘だよ。友達票入れるよ」 「そうしてくれ。いくら祭りとは言えドレス着るんだから意地でも優勝してやる」  女装コンテストは十二人出場するらしい。ワンピースを着る人、浴衣を着る人、中には制服を着る人もいる。ドレスを着るのは俺だけだ。ちょっとここは不満の残るところだ。十二人も出るのなら、もう一人くらいいてもいいのに。そうしたら、着る恥ずかしさも少しは軽減されるのに。 「女装コンテストの後は香川と見てまわるんだろ?」 「うん。女装コンテストのときエスコートして貰って、コンテスト終わったら即着替えてまわる」 「文化祭一番の楽しみだな」 「まぁ、楽しみだね。でも、拓真とまわるのも楽しみにしてたし」 「可愛いこと言うなー」 「よせ、気持ち悪い」  拓真と昼を一緒に食べるのなんていつもと変わらないのに、いつもより楽しく感じるのは、やっぱり文化祭というお祭りだからなんだろうな。うん、始まったばかりの文化祭。楽しんでやる!ドレスを着ることさえ楽しんでやる気持ちになった。

ともだちにシェアしよう!