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 花吐き病を発症してから七ヶ月。片想いは昇華されるどころか、ますます拗らせている気がする。だから当然花吐き病は治っていない。花を吐くことにも慣れてしまった。これもどうなんだろ。  で、俺の吐いた花を触って花吐き病を発症してしまった涼介はどうしたかは知らない。クリスマスの頃はまだ片想いでいたみたいだし、正月以降は勉強で忙しかったからわからないけど、たまに顔を合わせたときも何も言ってなかったから、多分花吐き病は治っていないと思う。  二人して花吐き病になるなんて予想もしてなかった。俺はともかく、涼介は彼女いたから片想いしてるだなんて思いもしなかった。  それが、実は何年も片想いしていたなんて、俺じゃなくたって驚くだろう。涼介の好きな相手が誰なのかは知らないけど、涼介が告って玉砕するとは思えない。  男らしいイケメンで、スポーツ万能、成績優秀。マイナスポイントなんてひとつもないだろう。その涼介をもってして、叶わない相手ってどれだけ高嶺の花なんだろう。可能なら譲って欲しいくらいだ。  もうすぐ卒業式で、卒業したら今の生活とはがらりと変わる。今、毎日会ってるクラスメートだって明日からは会わなくなる。だから、今なら告って、万が一ダメだったとしたって気まずさはないだろう。  そういう自分はどうなんだって感じだけど、俺の場合は、学校が離れたところで家は近所だ。そして幼馴染みで家族ぐるみでの付き合いだから、玉砕するわけにはいかない。ほんとにな。どうにかして欲しい。  「陽翔! 何ボケッとしてんだよ。死んでるぞ」  拓真の声に我にかえった。やっべ。ゲーム中だったの忘れてた。HPはすでにゼロになっている。 「どうした? 何か悩みか?」 「いや。花吐き病のこと考えてた」 「花吐き病か。まだ治ってないもんな」 「まぁな。片想いが叶ったわけでもないし、ふられたわけでもないし、他の誰か好きになったわけでもないからな」 「相手が普通の友達なんかより親しいから、玉砕覚悟で告れ、とも言えないしな」 「それで、涼介もまだ治ってないだろうな、と思ってさ」 「香川が片想いしてるなんて思わないよな」 「だろ? 涼介が叶わない相手ってどんな高嶺の花なんだろうなぁと思って。俺なんて喉から手が出るくらい欲しいのに」 「ほんとな。どんな美人なんだろう」 「前に好きなタイプは丸顔で目が丸い子って言ってた」 「可愛い系か。そういや、陽翔もそうだよな」  話しながらゲーム機を放る。  そう。涼介が言っていた好きなタイプって俺にも当てはまる。丸顔で目がくりっとしてる、とはよく言われる。が、残念なことに性別がダメだ。女なら少しは希望持てるかもしれないけど、俺は男だ。その時点で負けが決まってる。涼介のことを考えると、女に生まれてくれば良かったと思う。そうしたら玉砕覚悟で告白できたかもしれないのに、男じゃそれもできない。でも、女だったらこんなに仲良くはなってないけど。 「まぁ、でも陽翔ってこともあるかもよ」 「涼介の好きな相手が? ないない。こんな顔してたって俺、男だもん」 「でもなぁ。すごい独占欲だしさ。あれは俺、びっくりした」 「言われた俺もびっくりした」 ――陽翔は俺のだ  この言葉は、幼馴染みとしての独占欲なんだろうけど、恋愛対象としての独占欲ならどれだけ嬉しいか。でもそんなこと涼介は知らない。知らなくていい。  今の関係性を壊したくないから。だから涼介は知らなくていい。俺がひっそりと抱えていればいい想いだから。歳とって死ぬまで持っていく想いだ。

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