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第1話
僕等の街は、割と名の知れた温泉街だ。
夏休みの初めと盆休み、そして八月末の三度の週末、観光客向けに花火が打ち上がる。
今夜はこの夏最後の、三回目の花火大会。
バイトがなかなか抜けられず、着替えて外に出たのは六時になる頃だった。早く帰らないと暗くなるし、花火も始まる。
こんな時間でも、綿貫は自転車で僕を迎えに来てくれる。
綿貫は、山の上の学生寮にプロテイン飲料を貯め込み、各商品の特徴を踏まえた上で他人にも勧めまくる、筋肉オタクのお節介野郎。のぼせてしまいやすい僕の体調を、オカンのように見守るのがライフワークだ。
「あ! 衣笠、お疲れ! 夕方だから、虫除けキッチリつけてから帰ろう!」
用意が良いなあ、いつもありがとう。脛までロールアップしたパンツの裾はそのままにして、虫除けのミストを全身に吹き付けた。
大学学生課のシールが光るママチャリの後部荷台が僕の指定席。綿貫の太腿の筋肉、ハムストリングスを鍛えるために、最大限の協力を惜しまない(要するに乗ってるだけ)。
今週、初めてのバイト代が支給された。七月の後半二週間分だけだから、大した額ではない。それでもこの夏、一生懸命自転車を漕いでくれている綿貫に何かご馳走したいと思って、インドからの留学生スーラジ君のいる多国籍レストランで、スペアリブをテイクアウトした。
花火を観ながら食べられるかは、時間的に微妙だな。
今夜は、花火と骨付き肉で、綿貫感謝祭。
面と向かって言うのは照れ臭いから、こっそり感謝することにした。
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