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第2話
自転車は、ここから登りの連続。しばらく街灯の少ない道が続く。
「そうそう、高野がね、僕の背が伸びたって言うんだよ。前より手足がスラっとしてるって。言われてみれば伸びたような気がするんだ。
綿貫コレクションの、あのココア味のプロテイン、MBP配合だったよね? アレ飲んでたせいかなぁ」
「……うん」
登り坂を漕ぎながらじゃ会話にならないだろう。返事は期待しないで、僕の報告だけ垂れ流す。
「この暑いのに珍しくホットコーヒーを注文した男の人がいてさ、高野がね、コッソリ見てたら、砂糖12杯入れてたんだってよ! 溶けんのかよ、そんなに……って思ってたのに、器下げる時みたら、ちゃんと綺麗に無くなってたんだ」
「……へえ」
「こないだ取材に来た観光協会のフリーペーパー、もう配ってるらしくてさー。紹介したシューアイスが完売したんだって。マスターがびっくりしてた。
記事を見て店に来る客がいるから、高野と僕と、どっちかが店に居ないといけなくて、明日も二人共行くことになったんだー」
「……ん」
あからさまにテンションを落とした綿貫。それでもペダルを漕ぎ続ける。後ろから顔を覗き込むと、不貞腐れたような幼い表情で前を睨んでいた。
「……なんだよ、どうした?」
「なんだろ、なんか……。
衣笠が眩しいんだわ。遠い人になっちゃった気がして。
お前が愉しそうにしているの、嬉しいのに、変だな。俺、小っせえな……」
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