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おまけ。綿貫side
怒ってる訳ではない。
表情が戻せないだけで。
高野はイイ奴だ。
気が利くし、恋人と順調。
衣笠と同じバイトでも、安心していられる。
高野はイイ奴だ。
俺が衣笠と付き合ってる話がウソだと知っても、触れまわったりしない。
バラされたら、衣笠の身が危ないところだった。
高野はイイ奴だ。
だけど。
ムカつくーーーー!!
さっきからずっと高野の話で。
ムカつくーーーー!!
観光協会のフリーペーパー、衣笠とツーショットで表紙を飾りやがって。
ムカつくーーーー!!
写真投稿サイトで話題になったせいで、休みなしでシフト入れる羽目になって。
待つよ?待てるよ? でも、高野が一緒だと思うと……
ムカつくーーーー!!!
「どうせ。俺みたいなド阿呆は豆腐の角にあたm……」
本気で情けない弱音を吐き出す直前で言葉を飲みこんだのは、俺の意志ではなくて……
天使に救いの手を差し伸べられたからだ。
高野に言われなくても、俺だって気付いてる。
天使だった衣笠は、夏を過ごしたら、ピヨい下っ端のカワイイ天使じゃなくなった。進化した天使。ミカエルでもラファエロでもなんでもいい。スラリと大人に風貌を変えた。
しばらくの間、俺から距離をとっていた衣笠の手が、後ろの荷台から俺の腹にまわされる。汗だくの俺、大丈夫か? これはご褒美か? 夏のボーナス、ありがとうございます。
高野はイイ奴だって思っているのに嫉妬なんかして、小っぽけな俺。幸い自転車だから、前を向いていれば誤魔化せるつもりでいたのに。
大天使キヌガサ様にはいつだってお見通し。あっさり鷲掴みにされてしまう。
普段出さない低い声で問い質すなんてズルい。大人相手じゃ、逆らえなくてぽろぽろ腹黒が零れ出るじゃないか。
ギュッて苦しくなった胸の辺りに、衣笠の言う「メンタル筋」が潜んでいるに違いない。
この手が離れないうちに、鍛え方を脳内でシミュレーションしておこう。
ペタペタ頬にまで塗り付けられた虫除け剤。
吸い込んで咽 たから、今。
目が潤んでるの、咽たからだから。
打ち上げ花火が始まったけれど、止まったり振り向いたりしたら、せっかくのご褒美が消えてしまう気がして、ゆっくりそのまま帰路を急ぐ。
花火の破裂する音って、腹ペコに響くんだな。帰ったら、風呂より先に飯にしような。
……贅沢なお願いだけど、天使様? 腰に回されてヘソの前で組まれたその手、もう少し上にしてもらえないと、俺的にはちょっと具合が悪いんですが??
無理ですよね? そんなことまで気が付く訳ないよな、こいつが。
声に出したつもりはなかったけれど、背後の天使は一瞬だけ腕の力を強くして、背中に擦り寄った。
<おしまい>
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