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EPISODE1 ハイスペックな彼氏
俺は橘夏月 。
今は研修医であり、将来は小児科病棟に勤務するのが夢だ。
大病院の院長の息子であり、裕福な家庭で育った俺は全てに恵まれていた。
成績は常に学年トップだし、ルックスだって他より一つ飛び抜けている自信はある。老若男女問わずモテたし、俺と友人になりたいという奴らが常に取り巻きのようにいて、ご機嫌取りをしてくる。
できないことはなかったし、そもそも恵まれすぎている俺は、特に興味をそそられることもなかった。
あいつに会うまでは……。
あいつのせいで、俺の人生は変わってしまった。
昔の恋を引き摺り続けるなんて非常にナンセンスだってわかっている。それがどんなにいい相手だったとしても……。
比較的冷めているほうの人間に分類されている俺が、心が焼き尽くされるほどの恋をした。それはまだ医大生だった頃。相手は同じ医学部の同級生。
そいつはとにかく目立っていたしモテていた。そりゃそうだ。超が付くほど有名な大学院で教授を務める父親に、同じ病院で男達と肩を並べて激務をこなす同じく医師の母親。これだけで既にサラブレットなのに、外見も文句の言いようがないもので……。
190㎝近くある身長にスラッと伸びた手足。顔なんてまるでフランス人形のように整っている。『美青年』という言葉は彼の為にあるような言葉に思えたし、すれ違う人たちが皆溜息をつきながら振り返る。おまけに性格までいいんだ。
まるで聖母のような優しい微笑みに、全てを悟っているかのような物言い。それが全てお芝居だと気付いたって、俺の気持ちがぶれることなんて一切なかった。
なぜなら、成績は常に学年トップだし、そいつが書く論文はまるで平安時代の貴族が書いた恋文のように美しい。
そんな奴に、恋に堕ちるのなんて一瞬だった。
そいつの名前は成宮千歳。
そして、彼は大っぴらにはしてしなかったけどゲイだって噂だ。
医学部でも見た目がいいって有名な男を食っては捨て、食っては捨て……を繰り返しているって。それでもゲイだっていうことがバレたくなかったのか、女遊びも派手だった。千歳の隣にはいつも違う相手がいて、そんな光景を見る度に胸がズキンズキンと痛む。
でも千歳がゲイだとしても、バイだとしても俺にはチャンスがある……。
そう思い、何度も何度も告白して、そしてフラれた。
それでも俺は諦めなかった。
俺も元々男遊びが派手で有名だったけど、千歳に振り向いて欲しかったからセフレも全部切った。「捨てないでくれ」と泣いて縋る男には見向きもせず、ただ千歳に思いをぶつけ続ける毎日。
そんな努力が実を結び、俺は千歳の恋人と呼べる存在となった。
「抱いてやるから脱げよ」
ゾクゾクッと背筋を快感が走り抜けて……それだけでイッてしまいそうになる。
あんな屈辱的な言葉を浴びせてきた割には、優しく優しく抱いてくれるからズルいなって思う。どんどん好きになっちゃう……それが怖くて仕方なかった。
案の定、骨の髄から髄まで惚れ切ってしまって……あんなに男遊びをしていた俺が、生まれて初めて一人の相手と向き合うこととなる。本気で恋をして、恋の楽しさだけでだけでなく、苦しさや辛さも知ることとなった。
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